男性が入社した会社は本来、4泊に及ぶ新人合宿研修や、先輩社員とマンツーマンで仕事を教え込まれる職場での研修といった育成プログラムを募集の際に打ち出していた。男性が入社を決めたのもそれがポイントだったという。

「同期社員との絆を深めて切磋琢磨したいし、仕事を早く覚えてガンガン働きたかった。理想的な環境だと感じていました」

 しかし、在宅勤務でそれは叶わなくなった。合宿はもちろん中止。集合研修はリモートで講演を聞いたり、映像を見たりするだけだったという。

 集合研修が終わって職場での研修が始まっても、望んでいた状況とはまったく違った。業務の流れをビデオ通話で説明されるが、実際に横で見たり、一緒に手を動かしたりすることはできない。簡単な調べものや資料作りを頼まれるばかりで、実践的な研修とは程遠かった。

「先輩社員からは『ちゃんと教えられずにごめんね』と謝られた。会社もやむを得ない、落ち着いたらしっかり覚えればいいというスタンスでした。でも、このままでいいのか、来年入社してくる後輩が例年通りの研修を受けられたとしたら、すぐに追い抜かれてしまうんじゃないかと不安が募って……」

 完全在宅勤務は8月で終了し、9月以降は出社できるようになった。上司と先輩に頼み、出社日を合わせてもらって仕事を習っているという。

「週に2~3日出社できるようになりました。研修で覚えるはずだった下地ができていないから、わからないことだらけです。それに、制度上は完全在宅勤務もOKで、上司や先輩は僕のために出社している状態。申し訳ない思いもあります」

 新型コロナ禍のなかでの新入社員育成は企業にとって大きな課題となり、各社急ピッチで対応に追われた。ある企業の人事担当者は、「新入社員には本当にかわいそうな状況」と漏らす。

■テスト平均点過去最高

 一方、リモート研修が成果を上げたという企業もある。印刷大手の凸版印刷は今年、グループ企業も含めた417人の新入社員に対する27日間の研修をすべて、リモートで行った。半年かけて準備してきたプログラムを、3月に入ってすべて組み替えたという。同社人財開発センター長の巽庸一朗(たつみ よういちろう)さんは言う。

次のページ