そして、不調になかなか気づけないのもリモートワークの特徴だ。自宅で働くため表面上自由に感じるが、狭い居室で体をあまり動かさずに働いていると脳がリフレッシュする機会がなく、生活リズムも崩れやすい。冒頭の女性も、起き上がれなくなるその日まで、自分がそれほどまでに追い詰められているとは感じなかった。女性は言う。

「私は大学で臨床心理学を専攻しており、感情のセルフコントロールは得意なほうだと思っていました。それでもこれほど追い詰められてしまったし、追い詰められていることに気づかなかった。3カ月たった今でも当時のことを思い出すと過呼吸になったり、涙が出てきてしまったりすることがあります」

 周囲も不調に気づきにくい。画面越しでは顔色や口数の少なさに違和感を覚えづらいし、仮に気になっても口に出すタイミングをつかめず、そのまま放置してしまいがちだ。植田医師は言う。

「実際、新入社員が突然会議に出てこなくなったとか、PCを開けないようだという直接的なトラブルが起こってからの相談が多いです。不調をそのまま放置すると、より深刻なうつ病に移行する可能性も高い。少しでも変調を感じたら、受診をためらわないでほしいです」

(編集部・川口穣)

AERA 2020年11月9日号より抜粋

著者プロフィールを見る
川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

川口穣の記事一覧はこちら