ちなみに、歯が抜けたり欠けたりした魚って、あまりみたことがありませんよね。

 それもそのはずで、我々人間の歯は、乳歯と永久歯の2回しか生えませんが、魚の歯は、抜けたり欠けたりすると、何度でも生えてくるんです。

 例えばサメの歯は口の中に何重にも重なるように生えていて、先頭の歯が欠けるとすぐに次の歯が出てきて、いつでも万全の状態で狩りができるようになっています。一生のうちに2万本以上の歯が生え変わるとも言われています。

 あの大きく鋭い歯が、際限なく再生されるって、考えただけでも恐ろしいですが、またうらやましくもありますね。虫歯になっても、あの恐怖の治療を受けなくても、勝手に新しい歯が生えてくるなんて、夢のようです。

 そして3番目が、人間の奥歯にあたる臼歯をもつ魚です。マダイやクロダイをはじめ、臼歯をもつ魚は結構多いんです。これらの魚たちは、エビなどを歯ですりつぶして食べています。

 そしてもうひとつ、我々人間にはない、魚独特の歯として、咽頭歯(いんとうし)というものがあります。一般的な歯が顎にあるのに対して、咽頭歯は喉の奥の方にあります。コイやベラの仲間が代表的で、甲殻類や貝などをすりつぶして食べる時に使っています。役割としては、臼歯と似た感じでしょうか。

 ただ、複数の種類の歯をもつ魚も多くいます。主に雑食性の魚で、例えばマダイは獲物を捕らえる犬歯数本と多数の臼歯を持っています。このあたりは、我々人間と似ていますね。

 厳しい弱肉強食の世界を生きている魚たちにとっては、歯が欠けたりなくなったりすることは、餌を取れなくなることであり、即生死に関わります。少し前に流行ったCMに「芸能人は歯が命!」というフレーズがありましたが、魚たちにとっては、まさに歯は命そのものなんですね。

 最後に余談になりますが、皆さんは、お寿司を食べる時は、ひと口で食べる派ですか?それとも前歯で一度噛み切って食べる派ですか?

 筆者は、前者です。一貫を丸ごと口に入れて、まずはそれぞれのネタの風味を感じ、奥歯で咀嚼(そしゃく)しながら口中に広がる食感と味を楽しみ、最後にシャリの甘みの余韻を感じつつ、次の一貫に手を伸ばす……。考えただけで、口の中にシャリの甘みの記憶が蘇ってきます。

 お寿司の食べ方は人それぞれ、難しい規則はありません。皆さんそれぞれに、楽しく、おいしく召し上がっていただければと思います。

○岡本浩之(おかもと・ひろゆき)
1962年岡山県倉敷市生まれ。大阪大学文学部卒業後、電機メーカー、食品メーカーの広報部長などを経て、2018年12月から「くら寿司株式会社」広報担当、2019年11月から、執行役員 広報宣伝IR本部 本部長

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岡本浩之

岡本浩之

おかもと・ひろゆき/1962年岡山県倉敷市生まれ。大阪大学文学部卒業後、電機メーカー、食品メーカーの広報部長などを経て、2018年12月から「くら寿司株式会社」広報担当、2021年1月から取締役 広報宣伝IR本部 本部長。

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