天敵にのみこまれたら、ふつうの昆虫は胃や腸で消化され、栄養分として吸収されてしまう。だが、そんな常識を打ち破って生き延びる昆虫たちがいる。神戸大学の杉浦真治准教授が極めて珍しい例を発見した。小中学生向けニュース月刊誌「ジュニアエラ」11月号では、昆虫たちの驚きのサバイバル術を紹介する。

ミイデラゴミムシ。体長は15ミリほど。田んぼの近くなど湿った平地にすむ
ミイデラゴミムシ。体長は15ミリほど。田んぼの近くなど湿った平地にすむ

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 自然界の動物は、いつも天敵に食べられる危険のなかで生きている。でも、たやすく食べられないように、どの動物も天敵から逃れる何らかの戦略を持っている。昆虫の場合、戦略はいくつかのパターンに分けられる。

(1) 天敵に見つからないように身を隠す。体の色を草と同じ緑色にするバッタなどがその例。

(2) 見つかっても、つかまる前に逃げる。飛んで逃げる、草の陰や土の中の巣に逃げこむなど。

(3) 襲われても、トゲや毒で身を守ったり、ガスなどを噴き出したりして、天敵にあきらめさせる。

 ここまでは、昆虫好きでなくてもイメージできそうだ。では、次はどうかな?

(4) 天敵にのみこまれたあと、逃げる。

 この(4)を読んで、クジラにのみこまれたあと、おなかの中でたき火をしてクジラにくしゃみをさせ、そのスキに逃げ出したピノキオの映画を思い出した人もいるだろう。物語ならいざ知らず、そんな例があるのだろうか?といぶかしく思う人もいるかもしれない。実際、この戦略を持つ動物は数例しか見つかっていないが、昆虫の身の守り方を研究し続けている神戸大学の杉浦真治准教授は、そのきわめてまれな例を二つも発見している。紹介しよう。

●100度の「おなら」で攻撃 ミイデラゴミムシ

 天敵にのみこまれたあと、口から逃げる昆虫と、おしりの穴(総排出腔)から逃げる昆虫がいる。前者の例として、「ヘッピリムシ」(おならをする虫という意味)の異名を持つミイデラゴミムシが挙げられる。この虫は、カエルなどの敵に襲われると、おしりから100度に達する高温のガスを噴き出して身を守り、敵にのみこまれないようにすることもできる。

 それでも自分の何倍もあるカエルにパクリと丸のみされたらどうしようもない……かと思いきや、40%を超えるミイデラゴミムシが、カエルの体内で高温のガスを噴き出し、違和感を覚えたカエルに自分を吐き出させて生還したことが、杉浦准教授たちの実験で2018年に明らかになっている。この実験では、ミイデラゴミムシを丸のみしたヒキガエル類37匹のうち16匹(約43%)が、12~107分の間に、生きて元気な状態の虫を吐き出した。

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上浪春海
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