日光いろは坂(c)朝日新聞社
日光いろは坂(c)朝日新聞社

「ここにも日光とは書いてあるものの、栃木の文字はどこにもない。他の地域にも同じことが言えて、宇都宮や足利、鬼怒川、佐野と名所はたくさんあるのに栃木とはあまり書かれていない。すみ分けされて、連携がとれていないことが原因です」

 日光や宇都宮が単独では知られていても、栃木としての認識が薄いと田中社長は指摘する。観光地も食べ物も一つひとつは魅力にあふれているのに、生かしきれていない、と。

県民には余裕がある

 そんな魅力度ランキングは、政争の具にもなっている。

「納豆にいちごが負けてどうする。霞ケ浦に中禅寺湖が負けるもんか。鹿島神宮より東照宮の方がきらびやかだ」

 実は、栃木県では11月に県知事選が控えている。魅力度ランキングで躍進した茨城と比較して、栃木の良さをそう饒舌に演説する候補者が現れたのだ。だが、茨城を引き合いに出したことにツイッターで批判が集まり、後日「不快な思いをさせた」と陳謝する一幕もあった。

 ランキングが知事選にまで影響するとなれば、さぞ県民も怒り心頭かと思いきや、話を聞くとこんな声が多かった。

「昔は魅力度ってなんだって思ってたけど、今は違う。栃木、群馬、茨城の北関東でビリッケツ争いしても中途半端な順位よりビリでいい」(61歳男性)
「微妙な数字より最下位のほうがいい。これをバネに頑張れる」(22歳女性)
「主要な通りも人がいなくて過ごしやすい。ダサいイメージはあるけど築き上げたダサさを売りにしたらいい」(21歳女性)

 などと笑顔でこたえる。

 余裕の裏返しには、県内の人ならすぐにわかる先の名所や名産も大きいだろう。思い起こせば、つぶやきシローやU字工事の芸風もどこか自虐的に笑いを取る。47位という数字は喜ばしくないが、それでも自虐できるのは魅力を感じ取れているから。なかには、「知事は立場上、抗議しただけで、本音では最下位をおいしいと思ってるんじゃないか」という声もあった。

U字工事の益子卓郎さん(提供)
U字工事の益子卓郎さん(提供)

最下位で「ごめんね~」

 最下位転落3日後に都内で開かれた栃木県のPRイベントでは、U字工事の益子卓郎さん(42)が持ちネタを組み合わせた「最下位でごめんねごめんね」Tシャツを着用して登場した。後日、電話取材をすると、

「今まで北関東で争っていましたが、よく見ると徳島もいつも低い。『阿波踊りしかない』という自虐的なところが似てる気がします。一緒に何かしたい」(福田薫さん)
「来年は3位を目指したい。ウルトラCが起きて、オリンピックが栃木で開催されることになれば、3位も夢じゃないと思います」(益子さん)

 と、すこぶる前向きだ。こんなときこそ、GoTo栃木で魅力を味わってみてはいかが。

(編集部・福井しほ)

AERA 2020年11月9日号より

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福井しほ

福井しほ

大阪生まれ、大阪育ち。

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