そのヨ・ラ・テンゴは親日家としても知られている。昨年、メンバーのジェームズ・マクニューが、金延幸子のライブのサポートをつとめて話題になった。金延幸子はアメリカ在住のシンガー・ソングライターで、細野晴臣がプロデュースした1972年のアルバム「み空」は若い世代にも聴かれている。ジェームズ・マクニューは、過去の日本のポップス、ロックのアーカイブ作品を海外目線から積極的に再評価することも少なくない。また、海外での人気も高い芸術家の奈良美智との長きにわたる交流はファンの間では有名で、来日時には奈良の展示に足を運んだりもした。そんなヨ・ラ・テンゴと奈良美智のフレンドシップが形になったのが、先ごろリリースされた「スリープレス・ナイトEP」だ。

 今春、LAの「ロサンゼルス・カウンティー美術館(LACMA)」での奈良美智のエキシビションのために提供した楽曲をまとめたもので、オリジナルの新曲「Bleeding」に、ヨ・ラ・テンゴと奈良が共同で選曲したカバー5曲を合わせた計6曲が収録されている。カバー曲は、ボブ・ディラン、ザ・デルモア・ブラザーズ、フライング・マシーン、ロニー・レイン、ザ・バーズ。いずれも原曲のアレンジを崩しつつ、ヨ・ラ・テンゴらしいユーモアに包まれた解釈が楽しめる。もちろん、ジャケットのアートワークは奈良が手がけた。A面に楽曲を収録、B面にはメンバーのジェームズによるイラストが施されたエッチング仕様のアナログ盤は、全世界2500枚限定生産ということもあり既に完売しているが、楽曲自体はサブスクリプションサービスや配信などで聴くことができる。

 11月27日には『Electr-O-Pura』(95年作品)、『I Can Hear The Heart Beating As One』(97年作品)、『And Then Nothing Turned Itself Inside-Out』(00年作品)、『Summer Sun』(03年作品)の4枚の過去作品が再発売される。いずれも、バンドとして脂が乗り切っている時代の人気アルバムだ。「どんな時代でも、どんなことをやっていても、これから何十年経っても、僕らはロック・バンドだと思ってる」。かつて筆者の取材に応じたメンバーのアイラ・カプランはそう話したことがある。まるで勲章のように誇らしく語ったあの時の言葉が、コロナで疲弊している現在、強くなれる魔法のごとく彼らの飄々(ひょう・ひょう)とした音楽とともに体に響いている。

(文/岡村詩野)

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岡村詩野

岡村詩野

岡村詩野(おかむら・しの)/1967年、東京都生まれ。音楽評論家。音楽メディア『TURN』編集長/プロデューサー。「ミュージック・マガジン」「VOGUE NIPPON」など多数のメディアで執筆中。京都精華大学非常勤講師、ラジオ番組「Imaginary Line」(FM京都)パーソナリティー、音楽ライター講座(オトトイの学校)講師も務める

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