塩田:人間性が出ますね(笑)。私は土足で踏み込むから。小栗さんの話を聞いて、「自分、最低やな!」って思いました。

星野:いやいや、塩田さんは作家ですし。

小栗:それが仕事だから!

塩田:それはそうなんですが……。

星野:……僕も自分から進んでは聞かないかな。当事者が事件のことをどう思っているかは、その人にしかわからないことだから。ただ、相手が話したいと思うのなら聞きたいですね。

小栗:あくまで疑似体験ではあるんですけど、被害者を前に事件の核心に迫るシーンで、精神的に結構食らってしまったんですよね。被害者が味わってきた苦しみもわかるし、仕事とはいえ壮絶な過去に踏み込んで話を聞かなければならない阿久津のつらさもわかって、どっちもつらいよなあって……。だから僕はやっぱり、あの体験はリアルではしたくない。一度ふたを開けてしまったら、相手がすべてを語り尽くすまで聞き届ける覚悟がないとだめだと思うんです。

 小説のあとがきに、塩田は「『子どもを巻き込んだ事件なんだ』という強い想いから、本当にこのような人生があったかもしれない、と思える物語を書きたかった」と記している。

塩田:モチーフとなった事件は、劇場型犯罪として半ば神格化されたまま歴史が止まっています。でも、実際に何も知らない子どもが犯罪に加担させられている上に、犯人は青酸ソーダの入った菓子を実際にばらまいている。死者は出ていませんが、たくさんの子どもの命が奪われる可能性も十分にありましたし、愉快な犯罪でもなんでもない。私が小説を書いたのは、当時の報道では伝えられなかった、この事件の「罪の重さ」を改めて問い直すためでもあるんです。

 どんな事件にも、被害者の苦しみがあり、また加害者家族の苦しみがある。その罪の重さは、事件の報道が終わったあとも、ずっと心に残り続けるのだ。事件から35年の時を経て、「その後」の人生を歩む人々の声が、この映画からいま、聞こえてくる。(ライター・澤田憲)

塩田武士(しおた・たけし)/1979年、兵庫県生まれ。小説家。2010年に『盤上のアルファ』で第5回小説現代長編新人賞を受賞し作家デビュー。『罪の声』で第7回山田風太郎賞、『歪んだ波紋』で第40回吉川英治文学新人賞を受賞。21年には『騙し絵の牙』も映画化される

小栗旬(おぐり・しゅん)/1982年、東京都生まれ。俳優。10代から多くのドラマ・映画に出演しているほか、蜷川幸雄演出の舞台にも数多く主演。公開待機作に映画「新解釈・三國志」「Godzilla vs. Kong(原題)」。2022年の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」に主演することが決まっている

星野源(ほしの・げん)/1981年、埼玉県生まれ。音楽家・俳優・文筆家。ソロデビュー10周年を迎え、10月21日にシングル・ボックス「Gen Hoshino Singles Box “GRATITUDE”」を発売。2021年1月には新春スペシャルドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」が放送される

AERA 2020年11月2日号より抜粋