各国を代表する航空会社は「ナショナルフラッグ・キャリア」と呼ばれる。その象徴とされるのが、国旗を付けて飛ぶ政府専用機の機体整備などを手がけることだ。ANAは19年、日航に代わって初めて政府専用機の機体整備を受託し、名実ともに日本のナショナルフラッグ・キャリアとなった。

■拡大路線に懸念の声も

 ただ、この当時のANAの拡大路線には懸念の声もあった。「路線の急増で機材や人員を抱えれば、リーマン・ショックのような有事のときに負担がのしかかる」という指摘は今回、まさに現実になった。

 15年に傘下に収めたスカイマークも赤字幅を拡大させている。ANAは当時、投資ファンドのインテグラルとともに経営破綻したスカイマークに出資し、事実上のグループ企業にした。それまでスカイマークは日航との関係が深く、羽田空港でも日航と同じ第1ターミナルを使っていた。経営陣や社員の間でも「ANAの傘下に入るなどあり得ない」(当時の役員)といった反発の声が根強かった。

 買収話がささやかれ始めたころ、ANAの伊東社長(当時)は筆者にこう話していた。

「我々か日航か、スカイマークを取った方が日本の航空最大手になる。もし日航にスカイマークを取られたらもう逆転の目は無い。日航が(新規事業制限で)手を出せない今、取りにいかない手はないだろう」

 世界最大の旅客機エアバスA380の導入も、結果的には深刻な重荷になった。

 ANAは15年、超大型機A380を3機発注した。だが当時、A380は「大きすぎる」ことが災いし、すでに世界的に販売が低迷。背景にあったのは、ライバルであるボーイングの最新鋭機B787に代表される、中型機の燃費向上と航続距離の拡大だ。運航コストが安いだけでなく、大きな1機を飛ばすより、小さな機体を数多く飛ばした方が乗客の増減に柔軟に対応できるし、利用者が比較的少ない路線にも参入しやすい。

 ANAは、このB787を世界で最初に導入した航空会社だ。誰よりも最新鋭中型機の利点を認め、裏返せば大型機のリスクを知っていたはずのANAが一体なぜA380を3機も導入したのか。「ハワイ路線強化のため」が表向きの理由だが、そこには傘下に収めたスカイマークが大きく関与している。

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