樋口尚文:「角川映画」との出会いは1976年、中学2年で「犬神家の一族」の奇抜な予告編と劇場に並ぶ観客の大行列を見たときのインパクトは忘れられません。

 当時、日本映画は興行不振でどん底の時代だった。そんなときに華やかなスターとアッという見せ場を作り、鮮やかなCMの包装紙で包んで「中身はなんだろう?」と思わせてくれた。正直、期待と違うこともよくありましたが、「次はどんなものを見せてくれるのか?」とまた劇場に行ってしまう。それが「角川映画」の魅力ですね。

 さらに80年代になると大林宣彦、崔洋一、森田芳光、井筒和幸など作家性の強い監督を起用する方向にシフトチェンジした。以後の日本映画の地図を変えた。

 監督としてはやや“売り物の見せ場”が長くなるきらいがありましたが、「みをつくし料理帖」はそれがなく、自然に贅肉抜きに撮られている。「マキノ雅弘みたい」と僕は2回、泣かされてしまいました。

 映画には撮影現場での人の信頼や絆のようなものがおのずと立ち現れるもの。「みをつくし~」には角川監督の業績への信頼感や畏敬の念がよく表れていると思います。

●樋口さんが選ぶ角川映画ベスト5
1Wの悲劇/2時をかける少女/3犬神家の一族/4野獣死すべし(村川透監督、80年)/5スローなブギにしてくれ(藤田敏八監督、81年)

AERA 2020年10月26日号