2015年に放送されたauの三太郎のCM「鬼、登場」篇では、菅田将暉さん演じる鬼が「っす言葉」を連発。“チョー軽い鬼”が話題を呼んだ。なぜ「っす言葉」を使ったのか。三太郎のCMを手がけるクリエイティブディレクターの篠原誠さん(48)に聞いてみた。

「鬼は三太郎とは違うキャラクターにしたい。それも既成概念にとらわれないイメージにしたいと考え、『人懐っこい後輩キャラ』に設定しました。その場合、敬語よりも『○○っす』のほうが合うと思い、連発することになりました。『っす言葉』はなれなれしく相手を少しなめているように聞こえがちですが、“独特の親近感”を生みます」

■「心の距離」を調整

 このCMで興味深いのは、敬語とタメ口のせめぎ合いだ。三太郎は緊張しながら鬼退治に向かった。ところが登場したのは、以前、桃太郎(松田翔太さん)が退治した鬼だった。桃太郎が「鬼ちゃん!?」と声をかけると、鬼は屈託なく「あ、桃ちゃん、久しぶりっす~!」と返答。金太郎(濱田岳さん)と浦島太郎(桐谷健太さん)は面食らう。

 金太郎は当初「友だちですか?」と敬語で話すが、鬼に「ケンカの後はもう友だちっすよね~」と畳みかけられ、さらに手にしていたまさかりを「わっ、これ格好いいっすね~」とほめられると「本当に?」と一気にタメ口に転じる。

 敬語で話すかタメ口にするかには、話し手の「心の距離」が投影される。敬語ばかりではよそよそしくなるが、タメ口だと踏み込みすぎる。その距離感をうまくとれるかが、人間関係の要のひとつだ。中村さんは言う。

「日本語には“親しみをこめた丁寧語”がないんです。『っす言葉』はその空白を埋めるようにして広まったと考えられます。タメ口と敬語の間をつなぐ貴重な役割を果たしているのです」

「っす言葉」には前述のCMの鬼に「軽さ」を加えるなど、丁寧語の機能だけにとどまらない魅力がある。それがクリエーターたちを引きつけ、CMでの多用にもつながっているようだ。「っす言葉」は男性が主に使ってきたが、2000年代に入ると好感度の高い女性が登場するCMでも使われるようになる。

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