角川春樹(かどかわ・はるき)/1942年、富山県生まれ。株式会社角川春樹事務所代表取締役社長。本作が8本目にして最後の監督作となる(撮影/関口達朗)
角川春樹(かどかわ・はるき)/1942年、富山県生まれ。株式会社角川春樹事務所代表取締役社長。本作が8本目にして最後の監督作となる(撮影/関口達朗)
「みをつくし料理帖」のワンシーン。江戸時代、女料理人として成長していく澪(松本穂香)と花魁になった野江(奈緒)を描く。公開中 (c)2020 映画「みをつくし料理帖」製作委員会
「みをつくし料理帖」のワンシーン。江戸時代、女料理人として成長していく澪(松本穂香)と花魁になった野江(奈緒)を描く。公開中 (c)2020 映画「みをつくし料理帖」製作委員会

 角川春樹監督の10年ぶりにして“最後”の監督作「みをつくし料理帖」が公開中だ。長い映画人生で目指したものとは何か。AERA 2020年10月26日号から。

【「みをつくし料理帖」のワンシーンはこちら】

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「犬神家の一族」(1976年公開)以来、日本映画の歴史を塗り替えてきた。その角川春樹監督(78)が、「最後の監督作」と公言するのが、公開中の映画「みをつくし料理帖」だ。

「観た人の10人中9人に言われるんです。『まさか角川さんがこんな映画を作ると思わなかった。やさしくて、丁寧だ』と」

 角川さんは穏やかに微笑んだ。原作は自身が発掘した作家・高田郁のベストセラー小説。ときは江戸後期。享和2(1802)年の大坂の大洪水で両親を失ったヒロイン・澪が女料理人として身を立てていく物語だ。これまでに北川景子、黒木華の主演で4度ドラマ化されている。

「自分で撮るとは想像もしていませんでした。これまで多くの会社が映画化を目指したが、すべて流れてしまった。それなら自分で製作しようと決意したところ、妻から『あなた、製作だけでは意味がない。監督もやりなさい』と言われたんです」

■マジックをかけるから

 物語の軸になるのは、洪水で生き別れた二人の少女の友情だ。澪役に松本穂香、幼なじみで花魁(おいらん)となった野江役に奈緒を起用した。

「キャスティングの段階で穂香は知っている人は知っている、という新人。奈緒にいたっては無名でした。配給の東映は二人の起用に不安を持っていた。でも、私は一言『映画の公開前までには、必ず二人をブレークさせる』と言い切った。『角川春樹のマジックを見ていなさい』と」

 俳優発掘の眼力は誰もが知るところだ。「野性の証明」のオーディションで見いだされた薬師丸ひろ子、「時をかける少女」でブレークした原田知世……。

「ほかにも宮沢りえ、浅野温子、安達祐実、全部スターにしましたからね。まして二人は新人ですが、初めて演技をするわけじゃありません。演出次第です。だから、断言したんです。あとはマジックをかけるから、心配ない、と」

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