■技術発展と規制両立を

 一方で、リベンジポルノをネットに流された人にとっては、「ディープフェイクで勝手に作られたポルノ動画を流されただけです」と言い切ることが可能になるかもしれない。この場合は、流出した被害者の精神的な負担を減らす一助になりそうだ。

 ディープフェイクをめぐる精度の向上とそれに伴う悪用の増加という図式は、サーバーを介さずにパソコン同士でファイルをやり取りする技術「P2P」が、映画などの著作物の違法ダウンロードを促すことが目的でなかったにもかかわらず、違法ダウンロードに悪用されるケースが相次いだ構図と似ている。

 一方でディープフェイクの場合は、ポルノ動画の流出といったパーソナルな問題から、政治家のなりすまし動画による政治的なプロパガンダへの悪用といった公共性の高い問題まで、より広範囲に悪影響が出る可能性があるという意味では、危険性は高いとも言える。表現の自由を担保する必要があるものの、問題のあるディープフェイク動画を法規制する仕組みを検討する必要がありそうだ。

 ただ、それでも、法規制が強化された結果、日本独自の技術として発展する可能性があったP2Pが衰退したことの二の舞いは避けねばならない。新しい技術の発展と悪用防止の両立は、常に不可欠だ。(ライター・平土令)

AERA 2020年10月26日号より抜粋