河瀬:特別養子縁組が日本に浸透していくなかでトラブルが起こる可能性もあるかもしれない。でもこの物語で描きたかったのは「人間を信じたい」ということなんです。ひとつの命を囲んだ人々のつながりが、未来を変えていくことを信じたい。

辻村:同感です。物語の世界では悪意やドロドロが起きるほど「人間が描けている」と言われがち。でも実際そうだろうか? 困っていたら声をかけるとか善意で動くのもまた人間。利己的なだけが人間じゃない。それがリアリティーを持って描ければ、絶対に伝わると信じています。

■欧米と日本の感覚の差

河瀬:私の場合、母親は近くに住んでいて、小学校時代の授業参観には養親と母親、母親の再婚相手も来ていたんです。「なぜ自分はお母さんたちと暮らしてないんだろう?」とは思ったけど、なんとなく「おじいちゃんとおばあちゃんには子どもがいなくて、だから自分はそっちにいってるんだ」と思っていた。それに参観日には4人も来てくれるから「家族が増えた」みたいな感覚で捉えていたんです。

辻村:そうだったんですね。

河瀬:幼いうちから「あなたにはもう一人、お母さんがいるのよ」と言われると、子どもは本当に素直だから「増えていく」という感覚で受け止められると思うんです。大人が勝手にそれを「片方しか選べず、片方を捨てなければいけない」と決めつけている気がします。家族のかたちは「血がつながっているかどうか」ではない。一つ屋根の下で一緒に暮らすことで「家族になる」のだと実感しています。

辻村:河瀬さんはフランスでの編集作業中に「男性も不妊治療をするのは当たり前だから、その説明は省いてもいいのでは」と指摘されたそうですね。

河瀬:そう。あっせん団体の代表が「基本、養親となる女性には仕事を辞めてもらいます」というシーンでも「なんで女性だけ?」「衝撃だ!」という声が。

辻村:欧米諸国と日本の感覚はこんなに違うのか!と。

河瀬:いま新型コロナで大変な状況ですが、世界により目を向ける機会にもなると感じます。養子縁組についても新たな価値観を持てるかもしれません。

辻村:河瀬さんは原作の先にある「朝斗のまなざし」をしっかり描いてくださった。スタッフロールが終わる最後まで、絶対に席を立たずに見てほしいです。

(構成/フリーランス記者・中村千晶)

AERA 2020年10月19日号