「それぞれに医者になりたい理由があり、ゆるく繋がる。本当に困った時にはちょっと支え合う。それはそれで美しいなと思います。私はタイプ的に生澤久野が一番好きなのですが、地元でもあまり知られていないみたいです。毎日普通の医者として地道に働いていたからでしょうね」

 彼女たちが医師となって130年以上が経ったが、日本ではいまだに医学部入試で女性が不当に差別される事件が起きている。瑞の時代とは比べようがないことはわかっているが、それでもやはり今、瑞が生きていたら何と言うか気になってしまう。

「荻野吟子や本多銓子は『おかしい!』って言ったと思うんです。でも、瑞はどうかな? 医療に関してはすごく積極的でしたけど、資料を読む限り、あまり世の中に対してものを言おうとはしていなくて。今だったらたぶん、妊婦さんをコロナから守るために奮闘していたんじゃないでしょうか」 

(ライター・濱野奈美子)

■ブックファースト新宿店の渋谷孝さんオススメの一冊

 コミックエッセー『トラベルはとにっき』は、華やかではないフランスのリアルを描き、日本人の“フランスへの憧れ”を薄れさせてしまうという稀有な一冊。ブックファースト新宿店の渋谷孝さんは、同著の魅力を次のように寄せる。

*  *  *

 もうすぐ三十路(みそじ)の漫画家が唐突にフランスへ行こうとノリで決意し、約1年間の在仏中の生活を面白おかしく描いた前作『フランスはとにっき』。連載も終了し、次の仕事も決まっていない状況で著者が思い立ったことは、またしても「そうだ、フランス行こう。」でした。約3週間の海外旅行に担当編集者や実の姉も同行。本著では、女子3人の珍道中が描かれています。

 フランスの有意義(?)な情報は「シャワーは途中で水になることが多い」「墓地には大丈夫な墓地とそうじゃない墓地がある」「ウェイターは基本謝らない」などなど。読者からも「エッセーを読んでからフランスへの憧れがなくなった」と言われる作品は、あまりというか多分ない……? 華やかなイメージだけではないフランスを描いたエッセーコミック。こんなご時世だからこそ読んでほしい一冊です。

AERA 2020年10月19日号より