作品展を担当したMCOの前園美佐子さんによると、大野さんが新作に取り掛かり始めたのは昨年秋から。制作のために倉庫を借り、昼夜一人こもって作業に励んだ。特に、新型コロナウイルスの自粛期間中は制作に集中したという。

「一番思いがあるものを描きたい」として手がけたのが、今年春に1週間で描き上げたというジャニー喜多川さんの絵画だ。

 昨年7月に亡くなったジャニーさんを2273×1620ミリという巨大キャンバスに描いた大作で、これまでの作品になかった“いろいろな色を取り入れてポップに描き上げる”という新たな手法で臨んだ。大野さん自身、「ずっと見てても飽きない」という作品だが、実際間近で見ればその通り、メガネの奥を想像せずにはいられない。

 ジャニーさんの絵と同じ大きさの巨大キャンバスを使用した新作の「巨大細密画」も見応えがある。

「まず全体を埋めていって。そこから最後、極細ペンで隙間を埋めていったんだけど。それは楽しかった」(大野さん)

 いくつもの漢字がありローマ字があり、手があり時計があり花があり、コブラがいて宇宙人がいて黒人がいて骸骨が並び……。大野作品の真骨頂といわれる細密画だが、彼の頭の中を想像しながらこの一枚を隅々まで見ているだけで、あっという間に時間が過ぎていく。

 開放的な空間で見る大野さんのアートの世界は、見る者の心も日常から解きほぐしてくれる。(フリーランス記者・坂口さゆり)

AERA 2020年10月19日号