「誰に迷惑をかけるでもないし、できてもできなくても、やってもやらなくてもいい。やってみてできなくてもいいんだと思うようになり、とりあえず書き始めてみました」(まやさん)

 作品のテーマは「心の棲(す)むところ」。心は言葉に棲んでいて、言葉は心を宿している。長年思っていたことを作品に落とし込み、修正と試行錯誤を重ねて3週間ほどかけて書き上げた。受賞したことで、人に読んでもらえる作品が書けたという自信に繋がったという。

「嬉しいことに感想もいくつかいただけたので、ちゃんと読んでもらえて、(読んだ人が)少しでも頭をめぐらせてくれているんだと思うとたまらない気持ちになりました」(同)

「ワガハイハネコデアル」という作品で短編部門の大賞を受賞したペンネームむに子さん(20代女性)は、学生の頃から学校を休みがちだった。大学を中退してアルバイトをしていたが、コロナの影響で、またひきこもり生活に戻っていた期間に、引きこもり文学大賞に出合った。

■弱さを叩き出す戦い

「(執筆の経験を通じて)人生に起きるすべてのできごとに意味を持たせることができると思いました。ひきこもりという、社会的にはネガティブなことでも、作品の中ではその経験を材料として生かすことができた」

 とむに子さん。他にも入賞者たちには変化があった。

「寝る間も惜しんで書き続けるも納得いかず一から書き直すことも。自分自身の諦めと怠惰や弱さを叩き出す戦いでしたが自身の限界突破をすることができ、大きな成長に繋がりました」(ペンネーム西園寺光彩さん)

「雑文はたまに書いていましたが、受賞以降は『自分を受け入れてくれるところがあった』と思って、少しだけ安心しました」(ペンネーム蘭さん)

 ひきこもりを否定せず肯定的に捉える考え方を広めること。それが何よりこの問題に対する備えになる、と東さんは感じている。(編集部・高橋有紀)

AERA 2020年10月19日号