物語がドキュメンタリーのようにも見えるのは、出演者が実際にアイヌの人々だからに違いない。

「本作を作るにあたって、アイヌ役はアイヌの方にお願いしようと思いました。アイヌを題材とした映画は数少なく、その中でアイヌの役を演じてきたのは和人の俳優です。アイヌ自身がアイヌ役を演じる映画を作ることに意味があると思いました」

 そのために人のつてをたどって各地のアイヌを訪ねて話を聞き、最終的に阿寒のアイヌの人々を説得して出演してもらった。脚本は書いたが、現場ではできるだけ自分の言葉で語ってもらい、自然な姿をとらえるように演出した。

「自分の作為が出過ぎたり、アイヌの現実とは違う描き方や偏見を助長するようなことをしたりしてしまったら、最初の意図から離れてしまう。だからアイヌを美化しないように気をつけました。彼らはアイヌであり現代人でもある。彼らの普段の姿を意識しながら撮りました」

◎「アイヌモシリ」
主人公カントを演じる下倉幹人は、見る人を引きつける目力の持ち主。10月17日から全国順次公開

■もう1本おすすめDVD 「リベリアの白い血」

 福永壮志監督の長編第1作。アフリカのリベリア共和国から自由を求めて米国ニューヨークに渡った男の姿を描く。福永監督自身、ニューヨークで暮らして10年以上経って書きだした脚本は、労働搾取、移民、内戦といった複雑なテーマを内包し、広い視野で「今を生きる人」をとらえる。

 主人公はリベリアの過酷な労働環境下のゴム農園で働くシスコ(ビショップ・ブレイ)。ある日、彼は仲間たちと劣悪な労働環境を改善しようとストに参加するが、結局失敗。ニューヨークから戻ったいとこの話を聞き、シスコは家族のためにより良い生活を目指して単身ニューヨークへ渡る。リベリア人コミュニティーに身を置きながら、タクシー運転手として新たな生活を始めるのだが……。

 多くの日本人にとって直接接点のないリベリアだが、車のタイヤの原料はリベリアのゴムも多いという。

「モノを通してつながっていない国は今やない。(労働搾取が)モノを消費する自分たちに関係ないとは言えないからこそ、まずは現実を知ることが第一歩」と福永監督。

 相手を知り、想像する。彼の映画は不寛容な時代に必要なことを教えてくれる。

◎「リベリアの白い血」
発売元:ニコニコフィルム
販売元:オデッサ・エンタテインメント
定価3800円+税/DVD発売中

(フリーランス記者・坂口さゆり)

AERA 2020年10月12日号