だが最大の変化は心のなかにある。虐殺の時に母がレイプされて自分が生まれたことを子どもたちは知り、真実を母親と共有したのだ。

 子どもたち自身が、今作で初めて話している。

 フォースティンは13歳の時、死んだと思っていた父親が生きて刑務所にいると母から告げられた。母が襲われた状況も。

「それを聞いて、僕は自分の心が突き刺されたように感じ、ものすごく苦しくなりました」

 真実は子どもに苦悩をもたらした。が、それだけではない。

 トマスは乱暴な子だったらしい。親族から冷たい言葉を浴びせられて育った。18歳の時に本当のことを話したがトマスは決して受け入れなかった、と母。それから少しずつ変わった。

 乱暴なふるまいは「どうやって自分が生まれたのか、父親が誰なのかという真実がわからなくて混乱していたから」とトマス自身は語る。

「でも母がはっきり伝えてくれたので、これからは真剣に生きて、それを真実として受け止めようと決心しました」

「母がどれほど苦労したか、今ならわかります」

 あれから、母たちは仲間とつながり、体験を分かち合ってきた。著者は、子どもたちの就学を支える財団を知人と設立。現地の団体と協力し、母のカウンセリングも後押ししてきた。

 前作で、子どもへの嫌悪感を訴えていたフィロメナは、

「娘と自分の運命を受け入れられるようになって、ようやく変わりました」

 と話す。真実を知って泣く娘をこう励ましたという。

「自分がどんなふうに生まれるかは、自分では決められない。希望を捨てないで。私はあなたを愛している」

 性暴力の過酷さと、人間の生きる力に圧倒される。苦しみ、希望、可能性、赦し、いろんな色がゆらめく。著者はそれを繊細なまま伝えてくれる。

 著者を知る竹内万里子・京都芸術大学教授の尽力で、今作は、英文を併記して日本で最初に出版された。クラウドファンディングによって。竹内さんはいう。

「子どもたちのインタビューを読んで、聞きたかった声がやっと聞けた、やっとスタートに立てたのかもしれないと思うくらい衝撃で。この声は大切にして届けなければ、と即断でした」

(ジャーナリスト・河原理子)

AERA 2020年10月12日号