大島:あはは(笑)。

石井:自分がコントロールできないところに俳優が行ってしまった、と感じた初めての経験でした。本当に大島さん死んじゃうかも、と思った。

大島:お芝居をしながら「死」を初めて感じたんです。あの瞬間に自然に奈津美になっていて、娘のことが思い浮かんだんですよね。そこから「生きたい」という感情が生まれて、あの表現に行き着いたのかもしれない。自分でもびっくりしました。

石井:大島さんは感性がすごく鋭いし、動物的な勘がある。

大島:直感や運動神経はいいほうですが、最近はあまりそういう自分を過信しないようにしているんです。やっぱり30代になって年齢的に動けなくなって鈍さが出てきた。それもそれでいいのかなと思うんですけど。

石井:そう、それがよかった。30代ならではの肉体、鈍さのようなものがちゃんとあった。

大島:撮影中ずっと食べまくって、太ったんです。体の重い感じを体感しよう、って。

 大島さんは2017年から1年間、米国留学を経験。それが演技にも影響を与えたという。

大島:私、ずっと留学したくて、20代のうちに行っておこうと。あと、ちょっと仕事が嫌いになりそうだったので(笑)。子役からずっとこの世界にいるから「ほかにいい人、いるんじゃないか?」って。でも結局、一途でした。それで心が軽くなりました。いままで自分への負荷をかけるわりには、心に浸透しないまま、無理に吐き出していたんです。だから余計に疲れていたし、重かった。でも役が「すん」と自分に入って、体の底でポンッと跳ね返って自然に外に出す感覚がつかめてきたのかな。たぶんアメリカで自分が「何者でもない」ってことがわかったからだと思うんです。大島優子という存在を知らない人たちと出会って「自分は何者か」を見つめ直せた気がします。

石井:僕も今年韓国で映画を撮ったんですが、ものすごく苦労したんです。それは最近出した『映画演出・個人的研究課題』にも書いたんですけど、海外って言葉もうまく通じないし、食も文化も違う。そのなかで自分が大事にしてきたものを捨てなきゃいけなくなる。でも身軽になることで真に大切な、本質みたいなものが見えてくる。

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