「トップバッターに要求されるのは、一発で相手を仕留めに行くこと。厚労省が勤労統計の調査手法を変更したきっかけが、麻生(太郎)財務大臣の経済財政諮問会議での『統計の精度を上げろ』という発言だったことを取り上げ、それを国会で本人に突きつけた質疑は圧巻でした」(辻元)

 躍動感に満ちる小川の全身に漲るのは自らを戒め、律する自制心だ。

「政治家、国会議員。そんなものになりたいわけじゃないんです。ただただ、この国の政治を何とかしたい。その気持ちは初めて国政に挑んだ日から変わりませんし、誰にも負けるつもりはありません」(小川)

 そのストイックさは生半可ではない。国の舵取りの一端を担う政治家である以上、まかり間違っても、少々のことでは浮かれない。絶対に正道を踏み外すまいと心に決めている。政治資金の使途も厳格だ。決して無駄遣いはしない。

「本格的な、本物の仕事をするためには、自己規律が基本だと思っています。僕は目立つことも得意ではありませんし、常に地面の上を実直に這うことくらいしか取り柄はありませんから」

 小川が暮らしている自宅は、家賃4万7千円のアパートだ。身にまとうスーツも地元の量販店で買い求めた一張羅。これをボロボロになるまで使い続ける。しかし、その気概を現代の修行僧だと笑う者もいる。愛想をつかした同僚議員も数知れないだろう。しかし、当の本人はどこ吹く風だ。

 現在、上映されている「はりぼて」という映画がある。2016年に富山で発覚した市議会議員による政務活動費の不正受給問題を描いたドキュメンタリーだ。映画の配給会社から感想を求められた小川は、司馬遼太郎の「峠」という作品の一節を引いてコメントした。

「男子の志は塩のように溶けやすい。生涯の苦渋はその志をいかに守り抜くかにあり、その工夫は格別なものでなく、息の吸い方、吐き方、箸のあげ方、下ろし方、それを守る日常茶飯の自己規律に貫かれておらねばならぬ」

 この言葉は、他ならぬ自分自身への戒めだ。その後、前首相・安倍晋三の「桜を見る会」の疑惑追及でも活躍。時の首相や官房長官を前にしてもひるまず、たじろぎもしない。豊かな鋭感を秘めた、ドキドキするような思いで見守りたい次世代の旗手は、こうして頭角を現した。この頃から小川は劇的に化ける気配が充満していた。

(文・中原一歩)                                                 

※記事の続きは「AERA 2020年10月12日号」でご覧いただけます。