■「端末でなく料金」固執

 だが07年、菅総務相(当時)は有識者会議で「端末代金を高額な通信料金で回収することは不公平感につながる」として、端末代金と通信料金が明確にわかる「分離プラン」を導入するべきだとした。菅首相は13年も前から、通信料金の引き下げにこだわっていたのだ。

 ただ、菅氏の意向に反し、「実質0円」は08年に日本に上陸したiPhoneでさらに加速する。当時はガラケー全盛の時代。孫正義社長はアップルから独占的に販売権を得たiPhoneを前面に押し出し、「他社から乗り換えてくれれば実質0円」というキャンペーンを展開。あっという間に街にiPhoneが溢れるようになった。

 この流れを断ち切ったのも、やはり菅氏だ。官房長官時代の18年に値下げを求める発言を行い、19年には「端末の割引は2万円まで」と上限が設定された。「端末の割引に使う原資を通信料金の割引に回せ」というのが菅氏と総務省の狙いだった。

 しかし、端末の割引がなくなったことで、キャリア間の顧客獲得競争が著しく低調に。顧客の移動がぱたりと止まり、各社の解約率は軒並み低下した。危機感を覚えた総務省はこの2年間、9500円だった契約解除料を1千円以下にし、「2年縛り」も見直させるなど再び顧客の流動性を高め、競争を活性化させようとしているが、全く効果を発揮できていない。

■寡占化の先にあるもの

 キャリアに自由に端末割引をさせ、顧客の奪い合いが続いていれば、競争は過熱。3月から始まった5Gでも、各社が対応スマホを大幅割引で売れれば一気に普及し、日本のデジタル化も加速していたはずだ。だが菅首相と総務省の愚策により、市場は停滞してしまっている。

 端末ではなく通信料金の値下げにこだわりすぎる菅氏と総務省の競争政策が失敗に終わったことで、最終手段である「NTTによるドコモの完全子会社化」につながったわけだ。NTTは国が3割の株式を保有する会社であり、これは準国営化に近い状況と言えるだろう。

次のページ