中村太地(なかむら・たいち)/1988年生まれ。東京都出身。早稲田大学政治経済学部卒。2006年、高3でプロ入り。17年、第65期王座戦で初タイトルを獲得 (c)朝日新聞社
中村太地(なかむら・たいち)/1988年生まれ。東京都出身。早稲田大学政治経済学部卒。2006年、高3でプロ入り。17年、第65期王座戦で初タイトルを獲得 (c)朝日新聞社

 対局後に局面を再現しながら振り返る感想戦。そこには将棋の美しさがある。AERA 2020年10月5日号では中村太地七段にインタビュー。羽生善治九段との思い出を交えながら語る。

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 僕が小2から所属していた八王子将棋クラブは、実力云々というより、礼儀や謙虚さを重視する傾向が強く、子どもが大人と交じって将棋を指す際には、「大人に勝ったからといって、別に偉いわけではない。相手に敬意を払ってね」と合言葉のように言われました。

 改めて考えると、日本の伝統文化としての将棋の側面って、感想戦に表れているなと思いますね。次元をもっと上へと高め合う棋士の向上心が見て取れる。そういうありようって、将棋のすごく美しい側面ですよね。僕がタイトル戦の番勝負を経験した際にも、感想戦はしっかりやっていました。まあ僕だって、今も、ひどいヘマをした時は、感想戦を飛ばして帰りたいと一瞬思う時もありますが(笑)。

 僕は小さい頃から羽生(善治)さんが憧れの存在で、初のタイトル戦で戦った時は緊張しました。なのに感想戦では雑念もなく、新しい手を発見し合って楽しめるから不思議です。羽生さんは特に、感想戦をすごく楽しそうにされる方なんですよ。勝っても負けても。「こんな手があるんだ!」っていう発見を、すごく楽しまれているのが伝わってくる。だからつい、羽生さんとタイトル戦で感想戦をした時は、1時間半から2時間は平気で続けていましたね。

 なのに、僕は他人の将棋の感想戦をみると、長いなと感じちゃって。感想戦になると二人で一つの作品を作り上げたみたいなモードになるのは、一局指す中で互いが同じ将棋を考え抜いて無言の対話を重ねているから。感想戦だけは、戦いあった二人だけの世界っていうのがあるんです。

(ノンフィクションライター・古川雅子)

AERA 2020年10月5日号