ワークショップの主催者は、田尾さんの娘で今年、東京藝術大学を卒業した矢野淳さん(25)だ。矢野さんは、東京の大学と村を拠点としながら、大学などの仲間と共に、飯舘村の歴史や事故後のあり方を調べてきた。「ふくしま再生の会」の9年余りの活動記録を踏まえ、地域おこし協力隊の松本さんと相談しながら、7月以来2回のリモートワークショップを重ね、村の将来のあり方を探ってきた。

 3回目の今回は、初めての対面でのワークショップとなった。矢野さんは「飯舘村だけの特殊な将来像でなく、高齢化、少子化が進み、コロナ禍が広がるなかで、世界にアピールできる課題解決への道を、みんなで紡ぎ出したい」と言う。「世界にアピール」は既に現在進行形だ。田尾さんによると、「ふくしま再生の会」のメンバーが学会や英文誌に発表しているほか、香港の大学研究員が世界各地で報告している。この研究員は昨年の3カ月間、村内の再生の会事務所に泊まり込んで、「ふくしま再生の会」のNPOとしての活動実態を「文化人類学的手法」で調べた。来年にも再来日し、飯舘村の研究を続行する予定だ。

 避難中の人たちも、飯舘村の将来設計に意欲的だ。原発事故後に北海道栗山町に避難、牧場を経営する菅野義樹さん(42)は、このワークショップの常連で、今回もリモート参加した。

「(故郷に)戻った人、戻りづらい人、新しく住んだ人が、集まることができて、ぼくの念願もかなった。今後もこうした機会を重ねて、みんなが知恵を出して、これからの『いいたて』を作っていきたい」

 元村職員の杉岡誠さん(44)は今回初参加。「自分も200年前に北陸から移住してきた寺の6代目住職です」と自己紹介、移住者や学生たちと熱心に議論を続けた。10月に任期満了を迎える村長選は、6期務めた現職(73)が引退、今のところ杉岡さんだけが出馬表明している。

「私は明日が待ち遠しくなるようなワクワクする村にしていきたいと思っています。村に戻った人、新しい生活を始めた人、新しくやってきた人、皆が語り合うこうした場がふるさとを育てていきます。これからもぜひ続け、私も参加させてほしい」

 飯舘村の現実は、必ずしも楽観視できない。村のなかで、野菜や魚など生鮮食料品を売る店は、まだない。商売として採算が合わないからと言われており、村民は隣の川俣町のスーパーまで行く人が多い。そうした中で、村の内外で様々な居住形態の人たちが参加して、ひとつのコミュニティーづくりを目指す試みが、動き出した。主催者の矢野さんは言う。

「こうしたワークショップをさらに重ね、広げて、村内外の仲間を増やし、将来を担う若手主体の組織を作り、ふくしま再生の会とも提携していきたい」

(朝日新聞社・菅沼栄一郎)

AERA 2020年10月5日号