エッセイスト 小島慶子
エッセイスト 小島慶子
米最高裁判所前に供えられた花や追悼メッセージ。1997年に暗殺されたラッパー、ノトーリアスB.I.G.をもじり、ノトーリアスR.B.G.、略してRBGと呼ばれた (c)朝日新聞社
米最高裁判所前に供えられた花や追悼メッセージ。1997年に暗殺されたラッパー、ノトーリアスB.I.G.をもじり、ノトーリアスR.B.G.、略してRBGと呼ばれた (c)朝日新聞社

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

【写真】米最高裁判所前に供えられた花や追悼メッセージ

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 9月18日にアメリカ連邦最高裁判所のルース・べイダー・ギンズバーグ判事が逝去しました。史上2人目の女性最高裁判事であり、87年の生涯をかけ性差別撤廃に尽力した彼女は、近年はリベラルな若者たちの間で「ノトーリアスRBG(悪名高きルース・ベイダー・ギンズバーグ)」という愛称で親しまれ、大人気に。半生を描いた映画「ビリーブ」と米アカデミー賞にノミネートされたドキュメンタリー「RBG 最強の85才」は昨年日本でも公開されました。

 後任人事によっては米最高裁判事の3分の2を保守派が占めることになり、同性婚や中絶に関する司法判断が大きく変わる可能性が指摘されています。最高裁に安置された彼女の棺の映像を見ながら、その遺志を思いました。

 先日発表された米誌タイムの「世界で最も影響力のある100人」には、日本から女子テニスの大坂なおみ選手とジャーナリストの伊藤詩織さんが選ばれました。ブラック・ライブズ・マター運動を支持し、構造的な人種差別への抗議を込めて試合を拒み、警官らに殺された人々の名前を記したマスクをつけた大坂選手。日本ではスポーツに政治を持ち込むなとか、そんなのは日本人ではないなどのひどい批判がありました。

 伊藤詩織さんは性暴力被害を実名で告発。権力に近い記者である加害者は不起訴となり、民事訴訟の一審では伊藤さんが勝訴、現在も係争中です。苛烈な二次被害にも遭いました。伊藤さんの告発により、性暴力被害に関する警察や司法、医療体制の不備に多くの人が気づき、泣き寝入りを強いられてきた性暴力被害者たちへの支援の輪が広がっています。

 現状を変えようとする女性の名は、罵声を浴びせられ、歪(ゆが)められ、なかったことにされがちです。時代の変わり目に、そうはさせまいという思いを新たにした1週間でした。

小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。『仕事と子育てが大変すぎてリアルに泣いているママたちへ!』(日経BP社)が発売中

AERA 2020年10月5日号

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小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。共著『足をどかしてくれませんか。』が発売中

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