衛生管理が行き届かないトイレに行くのが嫌だから水分の摂取を控えるといった状況など論外だ。パンやおにぎりで食事を済ますのは健康的ではないし、雑魚寝も衛生的ではない。災害救助法が避難所で過ごす期間を長くても1週間と想定していることから、国内では充実した避難所運営が難しくなっているが、世界は状況が違うという。

 しばしば比べられるのが、日本と同様に自然災害が多いイタリアだ。榛沢さんは説明する。

「どんな小さな町で災害が起きても金太郎あめのように同じ支援を受けることができます。昨年12月にサルデーニャ島を視察しました。『島だからどうだろうか』と思っていましたが、他の都市とまったく同じような態勢で災害に備えていました」

■イタリアは国に指揮権

 災害から命を守っても、避難生活で健康を害しては元も子もない。冒頭の吉岡さんのように何カ月も寝泊まりする人もいるため、避難所環境の向上は災害大国と言われる日本では差し迫った課題の一つだ。

 同じく7月豪雨で被災した本県八代市の上村雄一さん(64)も2カ月以上、避難生活を送った。「毎回同じ食事で皆さんパーティションの内側に閉じこもっているので、認知症が進んだ高齢者もいる」と話す。

 そこで過ごすだけで健康被害のリスクがありそうな日本の避難所は、市町村が運営を担う。

 一方、イタリアでは市民保護省という専門の省で被災者支援の指揮をとる。州や自治体にも市民保護局という災害専門の機関が組織され、ひとたび災害が起きれば、備蓄されているテントと簡易ベッド、トイレなどがセットになって大型トレーラーで次々と運ばれる。そこには医師や行政職員だけでなく、ボランティアも帯同するという。

 さらに、イタリアのボランティアには「職能ボランティア」と呼ばれる人たちがいる。事前にトレーニングを受けて有償で被災者支援にかかわる。そこには料理人もいるため、避難者は温かい料理を避難しながら食べられるようになっている。

 日本との違いはどこから来るのか。榛沢さんはこう考える。

「市民が普段営んでいる生活を保障する『市民保護』という考え方が日本で根付いていないのです。それが政府の役割なのに、日本の場合は『緊急事態は仕方ない』と考えがちです。日本が民主国家になる際に市民革命を経ていない歴史的な経緯が影響しているかもしれません」

(編集部・小田健司)

AERA 2020年10月5日号より抜粋