棋士には「読む」だけでなく「切る」能力が求められます。

 私がよく使う例えでは、その事業所に赴任したての人がランチに行こうとしたとき、初めは周囲に不案内だから食べたいものを考えて外に出る。でも慣れるに従って、この近辺にはまずいラーメン屋しかないからラーメンは選択肢から外そうとか、あそこの海鮮丼はうまいとか、徐々に定番に絞られていく。それと同じことが将棋盤の上でも起こっているんです。

 ただ、効率を重視しすぎることで大ポカもあります。将棋でも、似た局面では大悪手だったから読まなかったけど、実はこの局面では良い手になっていたとかあるんです。逆にコンピューター的な総当たり思考だと見逃さないのです。

(構成/編集部・大平誠)

AERA 2020年10月5日号