日本将棋連盟の会長を務め、数々のタイトルを獲得した先述の米長邦雄氏の「語録」として、棋界では有名な言葉がある。

「兄たちは、頭が悪いから東大に行った」

 米長氏は4人兄弟の末っ子で、3人の兄はみな東大に進学。この言葉が本当に発せられたかどうか実は定かではないが、「米長語録」の一つとして知られるだけでなく、棋士を目指すことの難しさを象徴する言葉となった。

■東大将棋部の猛者たち

 では、松本さんも在籍した東大将棋部には、どんな猛者たちが集っているのだろう。

「麻布高校とか灘高校とか将棋の強豪高校出身者が多くて、たまに奨励会をドロップアウトして東大に入学した人も入ってきます。1年生のうちは結構人数が多いけど、最後まで残るのは学年に10人もいないですね。もちろんみんな強いので、団体戦7人のメンバーに入るのも大変です」

 現役の東大将棋部は、今年の朝日杯オープントーナメントで谷合四段、上村亘五段(33)、佐藤秀司八段(53)を次々に破った天野倉優臣・学生名人(2年生)が在籍する黄金期で、団体戦では早稲田大学や立命館大学などの強豪と覇権を競っている。

 松本さんは現在、主にインターネット媒体に執筆を続け、多忙な日々を送っている。将棋界全体が、藤井二冠の活躍で嬉しい悲鳴を上げている。

「藤井さんが中学生棋士になったときから取材をさせてもらいました。年齢イコール才能はほぼ外れないので、史上最年少の14歳2カ月でプロになった彼が強いのはわかっていましたが、これほど早く頭角を現すとは正直想像できなかった。しかし、今にして思えば小学校4年生のときの文集に『名人を超える』と書いていたように、早くからトップに立ち、将棋界を背負って立つ気構えができていたのでしょうね」

 対局で無類の強さを見せるだけでなく、過去の将棋界の文献も読み込んだ上で受け答えする姿勢に、松本さんは舌を巻いた。藤井二冠の「思考」は、ここにも表れる。

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