高濱 心のベクトル。いい言葉ですね。

安宅 小中学校時代は心のベクトルを育む時代だと思う。これは、何かを押しつけられたり教えてもらうだけの状態では絶対に育たない。自分で体験したり、ものを読んで考えたりしないと。圧倒的な体験量が必要です。そのうえで磨かれるのが、感情であり直観であり皮膚感覚です。何を見て美しいと思うのか、感動できるのか。そして、これはイヤだという感覚や、これはおかしいと疑う心も大切。いわば本能的嫌悪感、心のひっかかりですね。僕は、これが一番重要だと思う。感情っていうのは、非論理的なものではなく、論理を構築するための本能、本質なんです。

高濱 激しく同意です。本能的な嫌悪感に気づき、それを大切にできるかどうか。それはマシーンにはできないから。

安宅 そう。たとえばさっきの「気をつけ!」「前ならえ!」ってなんかおかしくないかって思うこと。そういう生理的感覚ってすごく大切なんです。ところが日本は、その感覚を持つこと自体を否定して、抑え込もうとしますよね。これに疑うことなく、気づくこともなく20歳になってしまっては絶対にいけません。「何もしたいことがない」という致命的な大人になってしまいます。ちょっと変でもいい、常識よりも自分の感覚を信じて行動できる子のほうが、これからの時代を楽しんで生き抜いていけると思います。(構成=篠原麻子)

※「AERA with Kids秋号」では安宅さんのワイルドに育った少年時代の話にも言及。「野外体験」を重視する高濱さんと話に花を咲かせました。

AERA with Kids (アエラ ウィズ キッズ) 2020年 秋号 [雑誌]

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篠原麻子
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