■倦怠感が抜けない

 都内の公立高校で政治経済を教える男性(60)は、1週間に1回1テーマ、20分の音声による「授業」を配信している。原稿をまとめ、夜の教室でリハーサルを行い、スマホで録音する。パソコンでチャイムの音も加えるという力作だ。1本の授業を作るのに、最低3日はかかる。

 負担増は自覚している。

「倦怠(けんたい)感が抜けず、血圧も高止まりです。週末の休みは月に1日あるかないか」

 生徒からは好評で、コロナ禍が収まっても続けるつもりだ。

 通常授業が再開され、オンライン授業の機会は減りつつある。だが、いつまた必要に迫られるかわからない。備えておきたい意識が、教育関係者にはある。

 教育研究家の妹尾昌俊さん(41)も、双方向性で遠隔で行うことができるオンライン授業のメリットを、「不登校も含めた多様な子どもの教育機会を保障できる」と認めたうえで、運用面での課題を指摘する。

「ただでさえ教員が業務過多に陥りがちな現状で、普段の業務に加えてオンライン授業を完璧に行おうとしたり、自分たちで教材まで作ろうとすることは、現実的ではありません」

 ならば、どうすればよいのだろうか。

「一部の自治体が行っているように、編集は行わず、通常の教室で行われる授業をシンプルにライブ配信する。教員の負担を増やさない形であれば、実現できるのではと思います」

 理想の追求ではなく、持続可能なオンライン授業が求められている。(編集部・小長光哲郎)

AERA 2020年9月28日号より抜粋

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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