イラスト:小迎裕美子
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 新型コロナウイルスは、人と人とのつながりや関係性にさまざまな変化をもたらした。 なかでも大きく変わったのが恋愛や結婚をめぐる風景だ。AERA 2020年9月28日号で掲載された記事から。

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「スッと熱が引いていくのを感じた。文字通り、冷めました」

 神奈川県の女性(31)はそう話す。6月初旬、ひとまわり年上の男性とデートした。3月以来2カ月半ぶりのこと。昨冬に知り合ってから月2回ほどのペースでデートを重ね、体の関係も持った。どちらからも「告白」はしておらず、女性のなかでは「彼氏一歩手前」。年の差は気にならず、「久しぶりに“恋が始まった”と思っていました」。

 緊急事態宣言中は一度も会わなかった。週に2回ほど高齢の祖母の家を訪ねる必要があり、自分が感染するわけにはいかない。事情は相手も理解してくれていた、はずだった。

■価値観が可視化された

 首都圏の感染者がグッと減り、「本当に楽しみだった」デートの当日、駅の待ち合わせ場所に現れた相手はマスクをしていなかった。「忘れたの?」と尋ねると、笑って言われた。

「マスクだらけで気持ち悪い。重症化しないから大丈夫だよ」

 さらに、「電車の同じ車両でマスクをしていないのは俺だけだった」と誇るように加えた。

「マスクは万一のときに他人にうつさないためのマナー。そこに思いいたらない人なのかと思うと一気に冷めてしまって。早めに気づけてよかった」(女性)

 その日は体調がよくないからと早々に切り上げ、その後、何度かLINEでやり取りはしたが、「もう終わり」だという。

 新型コロナウイルスは恋愛模様をも変えつつある。これまで「価値観の一致」は恋人や結婚相手に求める「定番」だった。だが、マッチングアプリ専門メディアなどを手がけるパラソルが運営し、未婚男女の本音を研究する「恋愛婚活ラボ」所長の伊藤早紀さんは、そこに明確な柱ができたと指摘する。

「会うか会わないか、マスクをするかしないか、どれだけの接触を持つかのスタンスは人それぞれ。これまでフワッとしていた“価値観の一致”という概念がコロナを通して可視化できるようになりました」

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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