専門家集団のリーダーで、地域医療機能推進機構理事長の尾身茂(71)は西浦の存在感をこう語る。

「感染症は、とくに流行初期はわからないことばかりです。感染がどう起きて広がるかは、いわば神のみぞ知るところ。そこに近づくための大切な視点を西浦さんは提供し、貢献しています。ただ仮定の数値の置き方次第で結果は違う。絶対視はできません。そもそも感染症対策は、疫学情報だけで白黒つけられるものではない。人びとの行動変容や経済、社会のありようも関係します。その複雑さに耐えて判断していくしかないのです」

 西浦本人が、批判された被害想定をふり返る。

「42万人死亡の被害想定には、対策を立ててハイリスクの接触が減れば、数は大幅に下がる、がんばりましょうという励ましも添えるべきでした。伝え方の反省はあります。ただ、科学的なコミュニケーションで被害想定を公表しない国はありません。政府は上から専制的に制約を人びとに課すのではなく、リスク・インフォームド・デシジョン(リスクに基づく決断)に乗りだしてほしい。それで数字を発表したのです」

 接触8割削減については「あの緊急事態で日本は法的にロックダウン(都市封鎖)できなかった。スローガンを作って流行制御するしかない。専門家で僕しかその評価はできないのだから踏み込んだのです」。どちらも「まったく後悔していません」と西浦は言い切った。

(文・山岡淳一郎)                                               

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