反発し合っていた凪沙と一果だが、一果のバレエへの思いが二人の心を近づけていく。草なぎも、冒頭で他の共演者と「白鳥の湖」を踊った。

 あれは足が痛かった! トウシューズを履いて踊ったんですけど、普段ブーツばっかり履いてるんで。やっぱり靴は厚底がいいよなって思いました(笑)。テイクを重ねると足が痛くて動かなくなっちゃうので、短い撮影で済むように気合を入れて練習しました。楽しかったですね。

 ハイヒールで足をクロスさせながら歩く、化粧台の前で口紅を差す、長い髪をかき上げるなど、凪沙の立ち居振る舞いは強く女性を感じさせる。

草なぎ:実はそれほど難しくなかったんです。僕の中にある「女性」を引き出してもらっただけで。きっと男でも女でも、自分の中に「異性」の要素を持っているんじゃないかな。人間は皆、母親の胎内で誕生して、その過程で異なる性に分かれていくだけで、元々はひとつの生命体なわけですから。

「男のくせに」という偏見やトランスジェンダー女性に対する無理解や抑圧も、作中ではリアルに描かれている。

草なぎ:僕もそうでしたが、きっとまだまだLGBTの人たちのことを「知らない」人が多いのかなと思います。だから、無自覚に差別的な言動をしてしまうことがあるのかもしれません。そこに対する想像力というか、ほんの少しでも気遣いをみんなが持てば、もっと自由で生きやすい社会になるのになと感じます。

 想像力を持つとは、他者を通じて、自分の内面を見つめることではないかと草なぎは語る。

草なぎ:僕は母親にはなれません。でも、凪沙を通じて一果と向かい合ったときに、「ああ、おれの母ちゃんは、おれのことを心の底から愛してくれていたんだな」と、強く感じたんです。自分の中にある母性が自然と目覚めて、演じることができました。母親という経験はなくて気持ちもわからない部分が多いけれど、相手と向き合ったときに、自分が今まで周りの人からもらったものがにじみ出てくるんだと思います。だから演技って、面白いですよね。

(ライター・澤田憲)

AERA 2020年9月21日号