ただ、この時間をかけた丁寧な解散は、子ども連れだといささか面倒なことになります。子どもも、歩き始めて間もない子どもらは、まるで流れる水のよう。ひとところに留まることができません。大人が玄関先で「今日は楽しかったね」などとおしゃべりしようものなら、「きょう」のところで大人の腕をすり抜け、「は」で下駄箱の扉をばーんと開き、「た」で靴磨きクリームのフタを開け、「の」でクリームを口に含む。大人が解散に時間をかけるほどに、破壊と混沌が進みます。

 アメリカだと、解散は至極簡単です。ハグや握手を交わし、バイ!と手を振り、解散。That’s it。その後、背後を振り返るようなことはありません。アメリカに来たばかりのころ、それを知らずにショックを受けたことがあります。アメリカ人の友人と笑顔で別れた数秒後、日本にいたときの調子で後ろを振り返ったら、相手は能面のような顔でスマホを確認していたのです。見てはいけないものを見てしまったようで、急いで顔を背けました。アメリカではバイ!と別れたらそこですべて終了。その後、相手に見られることは想定していないのです。ハグ・握手というわかりやすい区切りの動作があるからかもしれません。そのときは文化の違いを寂しく思いましたが、段々さっぱりしていてラクだなと思うようになりました。

 日本式とアメリカ式、どちらがいいというものではありませんし、私自身はどこまでいっても日本人ですから、アメリカでも日本人の友人と別れるときには相手の姿が見えなくなるまで手を振ります。ただ、もしすべての解散をアメリカ式に行うことができたら生涯100日分くらいは時間を節約できるんじゃなかろうか、なんて思いもたまに頭をもたげます。水のように流れ出す子どもらを腕に抱えているときは、特に。

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◯大井美紗子
おおい・みさこ/アメリカ在住ライター。1986年長野県生まれ。海外書き人クラブ会員。大阪大学文学部卒業後、出版社で育児書の編集者を務める。渡米を機に独立し、日経DUALやサライ.jp、ジュニアエラなどでアメリカの生活文化に関する記事を執筆している。2016年に第1子を日本で、19年に第2子をアメリカで出産。ツイッター:@misakohi

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大井美紗子

大井美紗子(おおい・みさこ)/ライター・翻訳業。1986年長野県生まれ。大阪大学文学部英米文学・英語学専攻卒業後、書籍編集者を経てフリーに。アメリカで約5年暮らし、最近、日本に帰国。娘、息子、夫と東京在住。ツイッター:@misakohi

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