元朝日新聞記者 稲垣えみ子
元朝日新聞記者 稲垣えみ子
初めて入った近所のカフェで、懐かしい木の物干し台がオシャレなガーデンテラスになっているのを発見!(写真:本人提供)
初めて入った近所のカフェで、懐かしい木の物干し台がオシャレなガーデンテラスになっているのを発見!(写真:本人提供)

 元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

【写真】近所のカフェで、木の物干し台がオシャレなガーデンテラスになっているのを発見!

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 大阪から仕事で東京にやってきた友達が、せっかくなので久しぶりに会いませんかと連絡をくれる。今や遠方の友と会えることだけで嬉しい。もちろん喜んで待ち合わせ。

 で、その友達の話がまた面白かった。大阪の田舎で古い家を安く買って必死に改装中らしいんだが、これが「昭和との戦い」なんだと。元の家は木や土でできているが、高度成長期、その上にピカピカの新建材が貼られ、それが時を経て無残に朽ちみすぼらしくなっている。なので懸命に剥がす。すると下から見事な木のハリや土壁が出現。でも問題は剥がした後の新建材。自然のものじゃないので産廃として処分せねばならず、えらく金がかかるらしい。

 いや、わかります。あの時代、我らはとにかく新しいものを求めていた。どこぞの異国のリッチライフを目指し懸命に金を稼ぎ、やたらとキラキラしたものを買った。その先に憧れの暮らしがあると信じていたのだ。

 で、今。

 言われてみれば、我が近所にある古い建物を改装したカフェや洋服店も、やはり「昭和」を引っ剥がして元のハリや壁をむき出して絶妙にカッコよくしている。昭和っ子の私としてはフクザツだ。我らは一体何をしてきたのか。

 思うに、当たり前だが誰も悪気はなかったんだよ。ただ成長のスピードが速すぎて、足元を見たり後ろを振り返る暇がなかったのだ。今にしてつくづく思うが、人の能力とは案外限定的である。あることに目を奪われていると、他のことがちっとも見えなくなる。結果、しょうもないことに血道をあげ、足元の宝を踏みつけにしていたりするのである。

 で、成長が止まった今、我らは発掘調査というか、宝探しを始めたのだ。本当にリッチなものは、我らを取り巻く自然が全て持っていたのやもしれぬ。だとすれば、これからのリッチライフに必要なのは、お金じゃなくて宝を掘り出す審美眼と労力である。それを体感したくて今度、戦いを手伝いに行く約束をした。ああ楽しみ。

稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

AERA 2020年9月14日号

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稲垣えみ子

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稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

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