2人は主にメールでやり取りをしていたが、5カ月近く雅子さんからメールが来なかったことも。それでも相澤さんは焦らずに、待った。

「それはつまり、説得をするとかお願いをするとか、そういうもので雅子さんの気持ちが動くはずはない。最初に会った時の印象として、そう思ったんです」

 本書は、雅子さんが国と元同省理財局長佐川宣寿氏を提訴した裁判が始まった日と同じ今年7月15日に発売された。

「検察庁法改正案だって、ツイッターで世論が高まり廃案に追い込まれました。森友問題も本を読んでくれた人たちの中から真実を知りたいと思う声が高まれば、真相究明の再調査をせざるを得なくなると信じています」(相澤さん)

 記者としての原動力は「怒り」。不当な思いをしている人の話を聞くと頭にくる、頭にきて止まらなくなると言う。

「要領が悪い人間なんだと思いますけど」と、少し照れた。(編集部・野村昌二)

(ライター・矢内裕子)

■丸善丸の内本店の高頭佐和子さんオススメの一冊

『その名を暴け #MeTooに火をつけたジャーナリストたちの闘い』は、「勇気と連帯には、未来を変える力がある」ということを思い出させてくれる力強い一冊。丸善丸の内本店の高頭佐和子さんは、同著の魅力を次のように寄せる。

*  *  *

 2017年、ハリウッドの権力者であるハーヴェイ・ワインスタインが長年行ってきた、卑劣な性的嫌がらせが告発された。米紙ニューヨーク・タイムズの2人の女性記者が、有名無名の被害者たちに寄り添いながら証言を引き出し、妨害にも怯まず調査をしていく過程が描かれたノンフィクションである。

 証言者の一人に人気俳優のグウィネス・パルトローがいる。ワインスタインが女性に関係を迫る際「あのように成功したくないのか」と自分の名を口にしていたと知り、苦しんできた。そのことを他の被害者たちの前で涙ながらに打ち明け、ティッシュを差し出されるシーンには胸が熱くなった。迷いながらも告発をした女性たち全員に、尊敬と親近感を覚えずにいられない。勇気と連帯には、未来を変える力がある。それを信じて私も生きたいと思う。

AERA 2020年9月14日号