渡邉信二(わたなべ・しんじ、54)/1966年、東京都生まれ。学級経営コンサルタント。川崎市立小学校と教育委員会に計29年間勤務し、今年3月に退職。教育委員会の指導主事だった2010年、中3生徒のいじめ自死についての調査委員を担当した(写真:渡邉さん提供
渡邉信二(わたなべ・しんじ、54)/1966年、東京都生まれ。学級経営コンサルタント。川崎市立小学校と教育委員会に計29年間勤務し、今年3月に退職。教育委員会の指導主事だった2010年、中3生徒のいじめ自死についての調査委員を担当した(写真:渡邉さん提供

 コロナ禍で制限ある生活が続くなか、悩みを抱える子どもたちは多い。いまこそ大人が子どもに「居場所」を用意することが必要だ。AERA 2020年9月14日号で、元小学校教諭で学級経営コンサルタントの渡邉信二さんが、親が子どもにしてあげられることを語る。

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 授業が再開された6月以降、小学校の先生方から僕のところに「対話的な授業をするにはどうしたらいいか?」という質問が度々寄せられました。

 文部科学省の学習指導要領に「対話的で深い学び」というものがあるんです。コロナ禍の中の授業では、みんながまっすぐ黒板のほうを見て授業を受けることが多いですが、そういった環境では「対話的な授業をするのが難しい」と先生方は感じたようです。

 その質問に僕は「“対話”って誰と誰の対話ですか?」と逆質問しました。すると「子ども同士」とか「教師と児童」と答えるわけですね。先生方は「対話的」と言われたら、単に「会話を交わすこと」だと考えている。でもそれは浅い考えです。

 僕が思う対話の基本とは、本を読むことです。

 休み時間に一人で読書に耽(ふけ)っている子に「外でみんなと遊びなさい」と注意する先生がいますが、とんでもない。そういう子は作者と、登場人物たちと、そして自分自身と深く対話しているんです。

■見ないふりして見守る

 なぜこんな話をしたかというと、今回の感染症では精神的にも物理的にも、子どもたちに「居場所」を用意することが求められていると感じるから。

 校庭や広場が子どもの居場所であるのと同様に、本の世界もまた大切な居場所なんです。

 だから先生方は「本を読んでいても構わないよ」「違いがあっていいんだよ」と児童たちにちゃんと教えてあげなくちゃいけない。その子が安心していられる場所が「居場所」なんだ、と。

 僕は教育委員会にいた時、ある中3生徒の自死の事案を担当しました。その生徒は、心の居場所を最後まで探し続けていました。

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