AERA 2020年9月7日号より
AERA 2020年9月7日号より

 在宅勤務によりデジタル機器の使用する機会が増え、「オンライン疲れ」を訴える人が増えている。脳のストレスを軽減し、オンライン疲れに負けない脳の基礎体力を養う対策が必要だ。「テレワークの弊害」を特集したAERA 2020年9月7日号から。

【図】脳の疲れを取る方法はこちら

*  *  *

 都内でPRの仕事をする女性(44)は先日、取引先から「メールが送られてこない」という苦情の電話を受けた。確かに送ったはずなのに……そう思っていたら、下書きにしたまま送信ボタンを押していなかった。こんな初歩的なミスを、ここ最近繰り返している。

 今は在宅勤務で、仕事量はずいぶん減ったはずなのにうまく進まず、夜遅くまでダラダラと作業してしまう。休日も出かける気になれず、家で動画を見ることが増えた。本来はアウトドア派だが、積極的に外に出る気持ちになれない。女性は言う。

「仕事でもプライベートでも、楽しいことが減ってしまった。そんな小さなイライラが、ミスにつながっているような気がします」

 コロナ禍における不安やストレスは、記憶を一時的に保管する「脳のメモ帳」である脳のワーキングメモリの働きを阻害すると指摘するのは、脳科学者で公立諏訪東京理科大学の篠原菊紀教授だ。

「ワーキングメモリが持つメモ帳は、せいぜい3、4枚。つまりたいていの人は、一度に3~4個の物事しか処理できませんが、不安やストレスがあると、このメモ帳の数がさらに少なくなってしまうんです」

 先の女性のように、「メールを送ることを忘れた」というのも、ワーキングメモリの衰えが影響している可能性がある。篠原教授は言う。

「コロナ禍にあって、私たちは感染への恐怖から脳が不安やストレスを感じている。そこに今度は、リモートワークでオンライン会議などを行うようになると、相手の声が聞こえづらかったり音声が途切れたりして、ただでさえストレスを抱えた脳にさらに負荷をかけ、さらにワーキングメモリの働きが悪くなりメモ帳が食べられる。今はそんな悪循環が起きています」

著者プロフィールを見る
野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

野村昌二の記事一覧はこちら
次のページ