「中国圏は新型コロナのほか、SARSや過去のパンデミックインフルエンザであるアジア風邪、香港風邪などの発生源となってきました。これは、生きた鳥や野生動物を扱う市場が多くあり、自然宿主から中間宿主、ヒトへのウイルス感染が起きやすい環境だからです。さらに、動物が持つ未知のウイルスは無数にある。今後も新たな感染症は必ず生まれます」(同)

 新たに生まれた感染症はいったん流行が収まっても終わりではない。より大規模に再流行したり、別の地域で発生したりする再興感染症となりうるのだ。1976年にスーダンで初めて流行したエボラ出血熱は、今もアフリカ各国で流行を繰り返している。13~14年の流行では西アフリカで1万人以上が死亡した。アフリカで発生して世界に広がったウエストナイル熱は00年代に入ってアメリカとカナダで流行し、600人以上の死者を出している。人類が闘うべき感染症は増え続けている。

 一方、有史以来人類が根絶に成功した感染症は天然痘のみ。WHOは次の目標としてポリオと麻疹の根絶を目指すが、これら三つはヒト独自の感染症だ。

「人獣共通感染症はヒトでの流行が収まっても、自然界でウイルスが受け継がれるため根絶できません。発生を予知して被害を食い止める先回り対策しかない。既に知られた感染症は自然宿主と伝播経路を突き止め、モニタリングして発生に注意を払うこと、未知のものは野生動物が持つウイルスの遺伝子と実験動物に対する病原性を網羅的に調べ、結果をデータベース化しておくことが必要です」(同)

 北海道大学人獣共通感染症リサーチセンターでは海外の研究機関とも協力し、野生動物から網羅的にウイルスなどの微生物を分離、ライブラリー化を進める。分離したウイルスを実験動物に感染させ、病原性を示したものが次の新興感染症の「第1候補」だ。これまでに、マウスで致死性を示す新型のアルファヘルペスウイルスがインドネシアのオオコウモリから、クリミアコンゴ出血熱に似た症状を起こす新型のナイロウイルスがザンビアのキクガシラコウモリから、ヒトとコウモリのウイルスが遺伝子再集合して生まれたと見られるオルソレオウイルスがザンビアのブタの糞便から見つかった。これらのウイルスなどが近い将来、猛威を振るうかもしれない。世界はいま新型コロナ一色だが、新たな感染症も迫っている。(編集部・川口穣)

AERA 2020年8月31日号

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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