「自分の洋楽体験をトレースするようなものを目指している」。澁谷は制作中の新しいソロ・アルバムをそのように捉えているようだ。くしくも今年5月、ドイツのレーベルからリリースされた日本のインディー音楽の2枚組みオムニバス・アルバム『Minna Miteru -A Compilation Of Japanese Indie Music(みんなみてる)』(テニスコーツのメンバーが編纂)に「yumbo」の曲も収められた。海外で澁谷の歌世界が高く評価されていることの表れで、澁谷の新しいソロ・ワークにはいっそうの期待がかかる。

「バンドキャンプ」などインターネット上の音楽プラットホームで、世界のミュージシャンとリスナーが自由に交歓できるようになった。そうしたなかで、澁谷浩次の音楽は、人として「生きる」という営みをのぞかせる。そんな彼の音楽の気高さが、自らの手で音楽を「見つける」という行為の意味を、私たちリスナーに静かにつきつけてくる。

 なお、澁谷の作品を購入できる「バンドキャンプ」は、新型コロナウイルスの感染拡大でアーティストの活動がままならない状況を踏まえ、毎月第1金曜日に販売手数料を免除し、売り上げがアーティストに直接還元される「BANDCAMP FRIDAY」を実施。今年いっぱい継続されるそうで、次回は9月4日(米国太平洋標準時間、日本時間では9月4日午後4時からの24時間)に開催。ぜひ、自分の手と耳で自分だけの音楽を「発見」してみてほしい。かつての澁谷浩次がそうやって大切な音楽と出合ったように。(文/岡村詩野)

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岡村詩野

岡村詩野

岡村詩野(おかむら・しの)/1967年、東京都生まれ。音楽評論家。音楽メディア『TURN』編集長/プロデューサー。「ミュージック・マガジン」「VOGUE NIPPON」など多数のメディアで執筆中。京都精華大学非常勤講師、ラジオ番組「Imaginary Line」(FM京都)パーソナリティー、音楽ライター講座(オトトイの学校)講師も務める

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