摘発チームが密売人から押収した覚醒剤の錠剤「ヤバ」。主にミャンマー北東部のシャン州で製造され、東南アジアで広く流通している(写真:Pat Jasan)
摘発チームが密売人から押収した覚醒剤の錠剤「ヤバ」。主にミャンマー北東部のシャン州で製造され、東南アジアで広く流通している(写真:Pat Jasan)

 コロナ禍を追い風に、ミャンマーの麻薬製造・密輸組織が勢力を広げている。地元の貧困層を食い物にして荒稼ぎする彼らが今狙う獲物は北米、そして日本だ。AERA 2020年8月31日号は、麻薬取引の最前線を追った。

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 2月、ミャンマー北部カチン州の州都ミッチーナで、麻薬の売人の摘発現場に立ち会った。摘発を行ったのは、地元のキリスト教会の聖職者やボランティアなどが運営する市民団体「パッジャサン」だ。同団体は薬物依存症者の治療施設を運営するほか、売人の摘発や事件の調査まで行っている。

 真っ昼間の田舎町で、数人の売人たちが木製の手錠をかけられてしゃがみこんでいた。皆げっそりと痩せて顔色が悪いが、目だけはギラギラと輝いていた。押収されたヘロインは市販されている飴の小瓶に入っており、白く粗い粒子という見た目もあって素人目には菓子そのものに見えた。市民団体が依存症者の支援だけでなく売人の逮捕までする理由を、摘発チームリーダーのスー・シャヌさん(46)はこう説明する。

「最終的には密売組織の元締を捕まえるために、売人を地道に逮捕している。軍も警察もまったく頼りにならないから、自分たちでやっているんだ」

 カチン州では貧しい労働者らの間で薬物依存症者が急速に増えている。当局や企業、武装勢力までもが彼らを食い物にする「麻薬ビジネス」が確立しているという。密売組織は、新型コロナウイルスの世界的流行さえ利用して、そのネットワークを拡大し続けている。

 日本をも巻き込んだアジアの麻薬問題の現状を探るため、2月に現地を訪ね、その後はコロナ禍のため、リモートで取材を続けた。

 隣接するタイ、ラオスとともに、かつて麻薬の一大生産地「黄金の三角地帯」と呼ばれたミャンマーでは、1950~90年代にかけて北東部のシャン州やワ州などで大量のアヘンが生産されていた。99年にミャンマー政府が「麻薬撲滅計画」を掲げてケシ畑の減反に乗り出すと、2019年までに国内のケシ畑は約4分の1にまで減った(国連薬物犯罪事務所=UNODC調べ)。だが、今も推定生産量ではアフガニスタンに次いで世界第2位を維持している。

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