一方で、処理水の放出方法で心配される風評拡大について、県地域漁業復興協議会の委員としてこの問題に関わってきた濱田武士・北海学園大教授(漁業経済)は「魚の買い控えが広がるだろうが、他県の水揚げ次第で正当な評価が得られる」と指摘する。

 原発事故から6年後の17年1~4月期。イカナゴの幼魚である「コウナゴ(小女子)」の福島産の取扱量(築地市場)が約70トンに迫り、全国一になったことがあった。福島県以外では不漁だったという事情もあった。が、他の魚はセシウムが国の基準以下となっていたのに、価格は回復していなかった。

「風評の実態は計測できないんです。福島県の魚がきちんと評価された証明だった」と濱田教授は語る。「取引の現実」が「風評を消した」とも言える。

 基文さんも言う。

「風評被害って言葉を使いたくない。そう言っておけば、ほかにモノを言わなくてもいい。便利で、逃げのような言葉だから。自分で考えて、現状を切り開いて行くことが先だろう」

 コロナ禍やトリチウム処理水の問題もあり、試験操業は当面継続することになりそうだ。

 だが、準備は怠りない。本格操業への新たなステップとして、相馬市は10月、公設民営の「復興市民市場」をスタートさせる計画だ。同市が造った施設で、基文さんら漁師と仲買業者、旅館など8者が出資した新会社が、魚介類を直売する。

 試験操業で漁獲量が激減し、魚の販売ルートがすっかり細くなった現状を打開しようと、地元スーパーなどとのパイプを活性化する狙いがある。その一方で、都市部の消費者への直接販売を拡大するなど、全国に「相馬の魚」をアピールするにらみもある。

 これまでにも、郡山市のイタリアンレストランや東京・赤坂、市ケ谷の料理屋など十数件に販路を広げてきた。昨年末にはバンコクのデパートで開かれた日本食材のイベントにも相馬のヒラメなどを送った。こうした実績を生かして「新市場」を活用していく計画だ。(朝日新聞社・菅沼栄一郎)

AERA 2020年8月24日号より抜粋