病気を抱えていないかをみるのはもちろん、子育てのちょっとした心配事を聞くチャンスです」(前出の細部院長)

 細部院長は、子育て中の親が孤立することを案じている。

 新型コロナは、出産に臨む女性にも大きな影を落としている。

 感染拡大を防ぐため、現在、妊婦健診はほとんどの場合、妊婦1人で受ける。両親学級もあまり行われていない。出産に家族が立ち会えないケースも相次いでいる。保健師の訪問も減り、産後ケアも受けにくい現状だ。

7月末、第1子となる女の子を産んだ都内の30代女性は、出産を振り返る。

「感染リスクがあるからと、陣痛室で1人の時間もありました。心細くて泣いたし、無駄にナースコールも鳴らした。ほぼ1人で陣痛に耐えました。大声を出して力んだので、マスクは涙とよだれでぐしょぐしょです」

 7月、新型コロナウイルスはエアロゾル感染の可能性が指摘された。埼玉協同病院(埼玉県川口市)の産婦人科部長の市川清美副院長(56)は、マスクをお願いする理由を解説する。

「事前にPCR検査をしているとはいえ、お産の時、大声を出す妊婦さんはたくさんいます。どうしても飛沫が出てしまう」

 6月下旬に長男を産んだ奈良県の入佐真里さん(33)は、夫の海外赴任先で出産の予定だったが、コロナ禍でかなわなかった。1人で出産後、夫にテレビ電話をし、わが子の顔を見せた。

「夫は『こんな画面越しじゃ、どうせぼくのことはわからないよ』と言っていました」

 個室で赤ん坊を胸に抱いて思った。「大切な瞬間だったのに」

 こうしたコロナ禍でのさまざまな制限は、親にも子にも大きなストレスになりうる。

 ママ友もできにくく、感染を恐れて外出を減らせば、気持ちも沈みがちになる。日本産婦人科医会の常務理事で、平田クリニック(埼玉県谷市)の平田善康院長(66)はこう話す。

「いまは誰もが不安になりやすい時期です。母になったばかりならなおさら。不安やイライラは、電話でもオンラインでも誰かに話して解消してほしい」

(ライター・井上有紀子)

AERA 2020年8月24日号