このTTCが、市内200カ所以上で行われているPCR・抗体検査の結果をデータベース化し、経済活動の再開に必要な数値基準を作り上げる。さらに、「トレーサー」と呼ばれる「追跡・隔離」を徹底させるエキスパートを新たに雇用し、検査で陽性と判定した市民の追跡を始めた。従事者は災害時の緊急支援や医療に関係した人が多く、年収も5万7千~6万5千ドル(約600万~686万円)と専門職並みだ。

 筆者が6月末、近所のクリニックで検査を受けた際は、タブレット端末に住所や電話番号、メールアドレスなどを入力した。「陰性」という結果が来たのは、携帯電話のショートメッセージとメールだったが、陽性だった人には追ってトレーサーから電話がかかってくる。携帯電話画面には電話番号ではなく「NYCテスト+トレース」と表示されるため、売り込み電話と思って無視するのを防ぐ。ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事も「NYCテスト+トレース」という表示を携帯電話で見たら、必ず電話に出るように記者会見で何度も強調した。

 いかに多くの検査を行っても、陽性でありながら無症状の市民が家族や同僚と接触していては、大量検査の意味がない。このため、TTCは6月以降、新たに3千人のトレーサーを雇用し、大学などの協力を得て、追跡・隔離のトレーニングを受けさせた。陽性となった人をどれほど隔離し、どれほど濃厚接触者を割り出し、隔離できるかが勝負となる。

 TTCは、陽性とされた感染者の90%に電話で接触できること、そのうち75%の隔離に成功することを目標としている。7月28日までの結果は、感染者の92.5%と電話で話し、75%の隔離に成功したとし、目標を達成している。(ジャーナリスト・津山恵子(ニューヨーク))

AERA 2020年8月24日号より抜粋