コロナウイルスの抗体検査を受ける男性/5月15日、ニューヨーク市ブルックリンで(写真:gettyimages)
コロナウイルスの抗体検査を受ける男性/5月15日、ニューヨーク市ブルックリンで(写真:gettyimages)

 新型コロナウイルスの拡大が止まらない米国で、感染者数を抑えているニューヨーク市は、検査のほか感染者や濃厚接触者の「追跡」「隔離」を重視する。そこで活躍しているのがトレーサーだ。AERA2020年8月24日号の記事を紹介する。

【コロナ禍で激変した米国のマスク観】

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「私たちは絶対に、(感染がピークだった)過去には戻れない」

 ビル・デブラシオ・ニューヨーク市長はきっぱりと言う。3月1日に新型コロナ感染者第1号が見つかり、世界最大の感染地となって以降120日以上続く午前10時からの記者会見で日々繰り返す。

「今日も、陽性率が低く推移している。これが実現しているのは、あなたたち市民が頑張っているからだ」(同市長)

 切実な訴えは、ニューヨーク市があるニューヨーク州が現在、全米で感染者数を抑えている数少ない「オアシス」の一つであるためだ。全米では累計感染者数は8月6日現在500万人に迫る。新規感染者は1日5万~7万人で、多くの州が自宅待機などロックダウンを実施していた今年4月の数倍に上る。米国は明らかに、新型コロナの感染拡大の抑え込みに失敗した「感染大国」となった。

 全米がそうした状況の下、オアシスであるニューヨーク州は、感染者が急増する35州からの旅行者には到着から2週間の自主隔離を要請。まるで「鎖国」状態だが、「検査、追跡、隔離」の徹底も他の州に抜きんでる。

 PCRと抗体検査がセットの検査はアポなし、無料で提供。ニューヨーク市からのスマートフォンへのメッセージは連日、「無料で個人情報は守られます。今すぐ受けましょう」としつこいほど送られてくる。テレビやユーチューブビデオに入ってくる検査を促すCMも異様に多い。この結果、検査数は、曜日によって差があるが、ニューヨーク市で1日5千~2万件超で推移している。

 さらに大切なのは、「追跡」「隔離」だ。ニューヨーク市は6月、市内の公立病院・診療所をまとめる公益法人「ニューヨーク市ヘルス+ホスピタルズ」の傘下に、新型コロナの検査・追跡・隔離を担当する「テスト&トレース・コー」(検査&追跡団体、TTC)を新設した。

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