外出自粛で体力の衰えも感じた。気づけば、ゆっくりしたペースでも10分も歩けば息が上がってしまう。前回の妊娠中は仕事帰りに2、3時間歩いて帰ることもできたのに、「これでは自然分娩なんて無理じゃないか」と、お産への恐怖が募った。

 出産のもう一つの不安は、一人で臨まなければいけないことだった。4月16日の健診のときに、クリニックで立ち会い出産や入院中の家族の面会不可と書かれた貼り紙を見つけた。

 前回の出産では出血が多く、産後数日間起き上がれなくなり、夫が仕事を休んで病室に泊まり込んで身の回りのことをやってくれて乗り切った。だが、今回は一人。産後も前回は沖縄に住む母親が上京し、食事の用意や家事をしてくれたが、今回は東京に来てとはお願いできない。「産後のことを考えても体への負担が少ない出産方法がいい」と思い、妊娠9カ月のときに主治医に無痛分娩にしたいと申し出た。出産費用が18万円プラスになるが、夫も「不安を少しでも取り除くことができるのなら」と賛成してくれた。

 お産の日は突然決まった。妊娠10カ月目に入った健診で、医師から「準備ができているんだったら、今日産もうか」と提案された。

 2日前の健診で子宮口が3センチまで開いていたことに加え、入院グッズを持っていたことも決め手だったかもしれない。陣痛が起きたときに痛みにもだえながら一人で運ぶのはつらすぎると思って、事前にクリニックに預けようと持ってきた。

 在宅勤務中の夫に連絡を入れ、マスクをつけたまま分娩室に入った。背中の下あたりに硬膜外麻酔を打つ。途中お産を進めるために15分ほど麻酔を弱め、その間は痛みがあったが、それ以外は医師や助産師と談笑しながらの出産だった。5カ月間コロナの感染に神経をとがらせて過ごし、ようやく会えたわが子の顔を見て、とにかくほっとしたのを覚えている。夫も産後15分だけ面会が許された。夫はマスクを着用し、さらに雨がっぱのような服を着て入室、汗だくになりながらもうれしそうに赤ちゃんの顔を見つめていた。(構成/編集部・深澤友紀)

AERA 2020年8月24日号より抜粋