(C)1960-2019 The Bert Stern Trust All Rights Reserved  映画のポスター(提供_KADOKAWA)
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(C)1960-2019 The Bert Stern Trust All Rights Reserved  映画に登場するチャック・ベリー(提供_KADOKAWA)
(C)1960-2019 The Bert Stern Trust All Rights Reserved  映画に登場するチャック・ベリー(提供_KADOKAWA)

 音楽にまつわる興味深い映画が近年、多数制作されている。運命に翻弄(ほんろう)されたジュディ・ガーランドの晩年をレネー・ゼルウィガーが熱演した『ジュディ 虹の彼方に』や、ブルース・スプリングスティーンに憧れるパキスタン移民の少年についての『カセットテープ・ダイアリーズ』など実話をアレンジした作品のほかに、ドキュメント映画も日本での公開が増えてきた。

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 そうしたなかで注目したいのが『真夏の夜のジャズ』だ。1958年7月に開催された「ニューポート・ジャズ・フェスティバル」の模様を中心に記録したドキュメント映画で、アメリカの音楽ドキュメント映画の草分け的作品だ。ルイ・アームストロング、セロニアス・モンク、ジム・ホール、チコ・ハミルトンといったジャズ界の巨匠たちの演奏が、臨場感たっぷりに堪能できる。そんな作品が公開から60年を経て、デジタル修復された4K版として8月21日から新たに公開されることになった。

 99年にアメリカ文化の遺産として保存に値すると判断され「アメリカ国立フィルム登録簿」に登録された。国立フィルム保存委員会が支援し、監督であるバート・スターンの夫人と協議して修復された作品だが、単なるジャズ映画ではない。この時代のアメリカの風俗や風習もリアルに刻まれているのだ。

 場所はアメリカ東海岸ロードアイランド州の島の先端に位置する湾岸の町ニューポート。古くから風光明媚(めいび)な別荘地として知られ、街並みも粋で落ち着きがある。映画序盤は地元の人びとへの呼びかけや会場設営などの準備に始まり、リハーサル風景も挿入されている。今日の野外フェスのお手本の一つになった「ニューポート・ジャズ・フェスティバル」の様子を知る上でも重要なアーカイブだ。デキシーランド・ジャズのバンドが「聖者の行進」をにぎやかに演奏しながら車で町を走る様子は、いやが上にもこれから始まるフェスへの期待を高めてくれる。

 ところがである。「西洋音楽の音階にはない“四分音”」を特徴として紹介されたセロニアス・モンクの「ブルー・モンク」が始まるや、モンクの演奏場面はそこそこに、会場で木製の折りたたみ椅子に腰掛ける観客の姿が映し出されるのだ。そこには鮮やかな夏のワンピースや帽子に身を包んだ女性、仕立てのいいジャケットを着用しサングラスをした男性――。一部に富裕層とおぼしき洒落た格好の黒人の姿もあるが、会場を埋める多くが白人たちだ。避暑かたがたジャズもちょっと楽しみに来た、といったアッパークラスの人びとの雰囲気が画面越しにも伝わってくる。もちろんモンクをはじめ、アーティストの多くは黒人。映像全編の約半分を占めるそうしたオーディエンスの様子は確かに優雅だが、今観ると、その構図には複雑な思いもよぎる。

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岡村詩野

岡村詩野

岡村詩野(おかむら・しの)/1967年、東京都生まれ。音楽評論家。音楽メディア『TURN』編集長/プロデューサー。「ミュージック・マガジン」「VOGUE NIPPON」など多数のメディアで執筆中。京都精華大学非常勤講師、ラジオ番組「Imaginary Line」(FM京都)パーソナリティー、音楽ライター講座(オトトイの学校)講師も務める

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