AERA 2020年8月24日号より
AERA 2020年8月24日号より

 緊急事態宣言から4カ月が過ぎたが、医療従者たちの闘いはいまも続いている。AERA 2020年8月24日号は、長期化するコロナ対応で苦悩する医師の声を聞いた。

【医師1335人緊急アンケート】いま、医療現場で何がおこっているのか?

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 人工呼吸器を装着するため、患者の気管にチューブを挿管すると、体液が飛び散った。ゴーグルとマスクをつけた30代の麻酔科医は思わず顔をしかめた。関西地方のある国立大学病院では、新型コロナウイルスに感染した人工呼吸器やECMOが必要な重症者のみ、4月から2床受け入れている。

 7月に入り、新型コロナウイルスはエアロゾル感染の可能性が指摘された。エアロゾルは、くしゃみや咳などのほか、気管挿管でも多く出るとされている。

 新型コロナ重症者も一般患者も診ているが、患者の顔部分には箱状のアクリル板を設置、エアロゾルが飛び散らないようにしている。

「それでも顔に飛んでくるエアロゾルが怖い。一般患者には手術前にPCR検査を受けてもらっていますが、外来にマスクがずれた高齢者が来ると、もし無症状のコロナだったらと疑心暗鬼になってしまう」

 自分が患者にうつしてしまうのではという不安も付きまとう。

「こんなプレッシャー、いままでにありませんでした」

 特に気を使うのが、新型コロナ重症者の治療だ。人工呼吸を施すとき、気管に管を入れるために麻酔を入れ、鎮痛薬の量をコントロールし、血圧を管理する。患者の体の向きを変えるだけで急変する恐れもある。

「手術件数自体は減り、時間的余裕はできましたが、新型コロナウイルスについて常に新情報を学ばなければならない。家族がいるから、診たくないのが本音です。でも、いま離職したら後ろ指をさされると思うとやめられない」

 命を守りたいと医師になった。だが、新型コロナ対応が長期化し、モチベーションを保つのが難しくなってきた。1月頃からプライベートでは外出せず、同居家族以外とは会っていない。

「半年間、修行僧のような日々を送っています。一体いつまで続くんだろう」

 子どもを預ける保育園からは、やんわり「コロナの患者さんを診療されていますか?」と聞かれた。保育士やほかの保護者からどう見られているのか、考えれば不安だ。(編集部・小長光哲郎、ライター・井上有紀子)

AERA 2020年8月24日号より抜粋

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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