スーパーコンピューター「富岳」が計算速度世界一になった。新型コロナウイルスの感染症対策に関する研究にも使われている。この世界最先端の技術について、小中学生向けニュース月刊誌「ジュニアエラ」9月号で解説した。

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 科学研究や技術開発には、コンピューターの中で行う模擬実験(=シミュレーション)が欠かせない。そこで活躍するのが高性能コンピューターだ。コンピューターの性能は一般に「計算速度」で表される。なかでも「膨大なデータをとてつもなく速く計算できるコンピューター」は、スーパーコンピューター(スパコン)と呼ばれる。中国、アメリカ、日本など世界の国々がスパコンの開発にしのぎを削り、そのランキングは毎年入れ替わっている。

 日本は、2011年に「京」という名前のスパコンを開発し、計算速度において当時の世界一となった。「京」は大きい数を表す単位にちなんだもので、1兆の1万倍が1京になる。「京」は1秒間に1京回を超える計算能力を持つことから、そう名付けられた。その後、「京」を超える性能のスパコンが各国で次々に開発されてきた。そしてこの6月、日本が新たに開発したスパコン「富岳」が、「京」以来9年ぶりに計算速度世界一になった。「富岳」は、裾野が広い富士山の異名だ。性能だけでなく使いやすさも追求し、利用の裾野が広がるようにとの願いを込めて名付けられた。

「富岳」の計算速度は1秒間に41・6京回。「京」の約40倍、昨年まで首位だったアメリカのスパコンの2倍以上の速さだ。スパコンの性能を表す目安は、計算速度以外にもある。「富岳」は、実際にソフトを動かした速さや人工知能(AI)向けの計算速度なども含めた4部門で世界一となった。

「富岳」は2021年ごろに本格稼働の予定で、現在は試験運用中。今年4月からは、緊急の大きな課題である新型コロナウイルス感染症対策の医学的、社会的な研究に利用されている。具体的にはこの感染症に効きそうな薬の探索結果や、せきや会話などで発生する飛沫の拡散のシミュレーション結果などがすでに公表されている。来年の本格稼働後は、新しい薬や材料の開発、気象・温暖化予測などに利用されるという。

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上浪春海
上浪春海

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