壁の向こうのパレスチナ 「傍観者のままでいいのか」 映画が投げかける問い
映画「傍観者あるいは偶然のテロリスト」が話題を呼んでいる。後藤和夫監督が投げかけるのは、イスラエル・パレスチナ問題に対し「傍観者のままでいいのか」という問いだ。AERA 2020年8月10日-17日合併号から。
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生まれた所や皮膚や目の色で、いったいこの僕の何が分かるというのだろう──。1989年にリリースされたパンクバンド「THE BLUE HEARTS」の「青空」は、「人種差別」への抗議の意味を込めて作られた。その歌詞は、日本や世界を覆うヘイトクライムや、コロナ禍で国家、社会、個人の「分断」が叫ばれる今、色あせるどころか輝きを増し、心に深く突き刺さる。
中東パレスチナが舞台の映画「傍観者あるいは偶然のテロリスト」にも、抜けるように美しい青空が幾度も登場する。映画はイスラエルによるパレスチナへの軍事侵攻に抗議するインティファーダ(民衆蜂起)に青春をささげてきた若者たちの記録だ。あどけなさが残る10代の青年が、なぜ、武装したイスラエル兵に丸腰で石を投げて抵抗するのか。殉教者として自爆テロさえも厭(いと)わないのか。
後藤和夫監督(68)は、元テレビディレクターだ。27歳でテレビの世界に飛び込み、ドキュメンタリーや報道の分野で活躍。イラク、アフガニスタンなど戦場もカメラ片手に取材し、初めてパレスチナを取材したのは2000年。04年から10年間、テレビ朝日「報道ステーション」のプロデューサーを務めた。
引退後、学生運動と自主映画作りに没頭した高校時代の仲間6人と東京・大塚にミニシアター「シネマハウス大塚」を作った。映画館を作ったからには映画も作りたいと、かねて構想していた映画のシナリオに着手した。「劇映画のロケハンもかねたセルフドキュメント」という設定で、監督本人が主人公となり、20年ぶりにパレスチナを訪れるという場面から始まる。
「当時、まだ若くて体力もある私は、生々しい紛争のドンパチの現場を、カメラを回して這(は)いずり回っていました。あれから20年、当時の若者もすっかり様変わりしていました。ある抵抗運動の闘士は、パレスチナ最大のラジオ局の社長になり富豪になっていました」
