ポンペオ長官の言葉は、トランプ支持者の心に深く響くものがある。中国からの安い輸入品によって製造業でリストラが引き起こされ、特にブルーカラーと呼ばれる労働者がその犠牲者になった。中国をギャフンと言わせる政策には溜飲が下がる、というわけだ。しかも、中国に対する不満は、長い間あるにもかかわらず、トランプ氏以外の政治家が表立って、中国に厳しい措置をとったことはなかった。

 逆に言えば、ヒューストンの中国領事館閉鎖は、トランプ氏が11月の大統領選挙で再選したいがための賭けでもあった。

 当然、中国政府は猛反発した。怯むことなく、27日、成都の米領事館閉鎖というリベンジに出た。24日にヒューストンの領事館が閉鎖されてから、わずか3日後の出来事だった。

 同時にトランプ政権は、中国発の動画共有アプリ「TikTok(ティックトック)」を国家安全保障上の脅威があるとして締め出そうとしている。ところが、TikTokは、若者だけでなく幅広い有権者が好むアプリだ。

「TikTokで、コメディアンがトランプを批判するビデオを見られなくなるなんて信じられない」(中年の有権者)という声は多いが、中国資本のアプリというだけで、TikTokへの攻撃を支援するトランプ支持者は少なくない。

 ここまで激化した米中の対立は、大統領選が終了しても簡単には収まるとは思えない。トランプ氏ではなく、事実上の民主党大統領候補であるジョー・バイデン前副大統領(77)が当選したとしても、トランプ政権が引き起こした米中緊張と、中国側の強い態度はすぐには改善しないだろう。(ジャーナリスト・津山恵子【ニューヨーク】)

AERA 2020年8月10日-17日合併号